ううむ。
解答の解説文を読んでも、正解の選択肢が正解である根拠が、分からない…。
現代文ってやっぱり、センスなのか……?
「険しい顔つきになってるね、利比古くん」
「……さやかさん」
「納得できないんだ、解答見ても」
「そうなんですよ」
「――ちょっといいかな?」
左サイドからさやかさんがぼくに近づき、問題集のページに視線をそそぐ。
「なるほどね」
「納得……できたんですか? さやかさんは」
「うん。だけど、利比古くんの気持ちも理解できるよ」
それから彼女は、懇切丁寧に「解説」をしてくれた。
「……そういった『筋道』だったんですか」
「だったんだよ。――もっとも、利比古くんの志望校のレベルだと、こういう厄介な問題は出ないかもしれない」
「歯が立たずとも仕方がない……と」
「割り切りも必要」
「割り切り――」
「そ」
それにしても、当たり前に当たり前のことなんだけど――さやかさんって、頭いいんだなあ。
「さやかさんは、スゴいんですね」
「スゴいかなあ。現代文ならアカ子のほうがスゴいと思うけど」
ぼくの右サイドに居たアカ子さんが、
「それはプレッシャーかけてるのかしら? さやかちゃん」
「プレッシャーじゃないって。リスペクトだよ、リスペクト」
「たしかに女子校時代は、定期テストだと互角だったかもしれないけれど。
わたし――推薦で、今の大学に入ったでしょう?
一般入試は受けてないのよ。
だから当然、過去問慣れしてるのは、さやかちゃんのほうよね?」
「…つまりなにが言いたいのかな、アカ子は」
「『受験』現代文だったら、さやかちゃんのほうに軍配が上がるって思ってるのよ」
「そっかなあ…」
「そうよ。あなたは、日本の最高学府の二次試験をくぐり抜けて来てるのよ?」
「…でもさあ」
「…?」
「本気出したら、東大どころじゃないでしょ。アカ子のポテンシャルは」
「……なに言い出すのよ、さやかちゃん」
「アカ子の学力だったら、世界中のどの大学でだってやっていけたと思うよ?」
「こ……根拠を」
「中高一貫6年連続オール5」
唖然とするアカ子さん。
唖然としたかと思うと、あからさまな照れ顔になり、うつむき加減の苦笑いで、
「そ、それは、定期テストとかの頑張りの反映でしかないから……。本番一発勝負とかなら、さやかちゃんのほうが、強いから」
「いやいや、強い弱いとか、そーゆーのじゃなくて」
さやかさんは、やや呆れ加減。
――それはそうとして。
今、肝心なのは。
「さやかさーん、アカ子さーん、戻ってきてくださいよー」
…言う、ぼくであった。
アカ子さんは「戻ってきてください」の意味を把握してくれて、
「は…激しすぎる脱線だったわね。ほんとうにごめんなさい、利比古くん。さやかちゃんと2人だけの世界に入り込んで、白熱しちゃった…」
さやかさんも、
「わたしも悪かった。今晩の『主人公』をひたすら放置するなんて、バカだったよね。――利比古くん、戻るよ。家庭教師役に」
と言って、恥ずかしげに苦笑い。
× × ×
世界史の『ヨコのつながり』について、さやかさんに教えてもらっていると、
「飲みもの持ってきたわよ」
という声。
姉が来たのである。
「ヤッター」とさやかさん。
「ありがとうお姉ちゃん」とぼく。
…アカ子さんはというと、グラスに入った液体をしげしげと眺め、
「――これ、ノンアルよね??」
と、突然のインパクト発言……!!
「利比古くん…。
アカ子はね、愛とお酒が飲めるようになったばっかで嬉しいから、ついついあんなこと口走っちゃうんだよ」
「へ、へぇ……。」
「血筋みたい」
と言い、さやかさんは呆れ笑い。