11月14日は、おねーさんの誕生日だ。
20回目のバースデー。
おねーさんもとうとうハタチになるのである。
ハタチになればお酒が飲める。
ふとした瞬間に、ハタチになったおねーさんがお酒の入ったグラスを片手に持っているところを想像してしまう。
そんなアダルティなおねーさんの姿を思い浮かべてしまうと、ついついウットリとした気分に…。
…とにかく、おねーさんのハタチの誕生日は、とてもとても楽しみだ。
ま、お酒云々よりも。
おねーさんがもっともっと元気になってくれるのが、わたしたちの願いなんであって。
――きっと大丈夫だと思う。
近いうちにきっと、彼女は元通りになるはず。
完全復活の日は――近い。
× × ×
誕生日当日は、おねーさんのサークルの方々が邸(ここ)に来てくれることになっている。
どうおもてなしするのか、しっかり考えないとな……と思いながら、リビングを歩いていたら。
「利比古くん。――こんな場所で受験勉強!?」
おねーさんの弟は長(なが)テーブルの上に参考書やら問題集やらを広げている。
「えっ、ダメでしょうか?」
「なんで自分の部屋で受験勉強しないの? 自分の部屋だとできないの?」
「…正直、ぼくの部屋だと能率が上がらず」
「…共感できないな」
「そこは共感してほしいんですけど」
「なんで」
「だって……あすかさんも高校時代は、このテーブルでよくお勉強してたでしょ」
ぐぐっ。
「言い返さないんですね」
な、生意気な。
× × ×
「――利比古くん。
わたしに5分だけ、時間をちょうだい」
「どうして??」
「どうしても」
「それなら、ぼくの背後のソファに座るのはやめてください」
「な、生意気ボーイすぎるんだからっ。なんなの、きょうの利比古くんの生意気さは」
「生意気ボーイって…」
苦笑いな彼の横顔。
…背中を蹴りたくなるまでには至らないが、ムカムカしながら、
「わたしはね、おねーさんのバースデーのことを話したいんだよ」
「だったらなおさら、座る場所を移動してほしいんですけど」
「……どうよ。自分のお姉さんがハタチを迎えるってゆーのは」
「どうしてもぼくの背後がいいんですね」
「黙ってわたしの質問に答えるんだよ」
わたしの座る位置を変えさせるのを諦めたらしい利比古くんは、
「――いよいよ、って感じですね」
「――感想、それだけ?」
「20代になっても、姉は姉なので」
……大きな溜め息をついて、わたしは、
「感慨深くないわけ!? 弟なのに。わたしはメチャクチャ感慨深いよ。
昔話するみたいだけど……おねーさんが邸(ここ)に来たとき、彼女はまだ中学2年だったんだよ!?」
「ですねえ」
「あっという間に時は経って……彼女ももうハタチ。わたし、おねーさんのこと、ずっと見てきてるんだから……」
利比古くんがペンを置く。
「色々あって、ここまで来た。ここまで来れた。
……ぶっちゃけると、ケンカしちゃったこともあったんだけどね」
「さしずめ、姉妹(しまい)ゲンカといったところですか」
「……でも、ケンカを乗り越えて仲直りするたびに、絆は強くなっていった」
「去年の大(おお)ゲンカとか、すごかったですもんね。ぼくたち、ハラハラしきりでしたよ」
「簡単に蒸し返すんだから……」
頬杖をつく利比古くん。
彼は、
「――ぼくも、お姉ちゃんと、もっとケンカしたほうがいいのかなぁ。」
と……感慨深げな声で、言った。