【愛の◯◯】別れた理由も好きになった理由も

 

本部キャンパスのベンチに座っている。

人通りがけっこう多い。

 

…定刻3分前になっても待ち人が来ない。

これは…遅刻のパターン。

イラッとなって、ワイヤレスイヤホンで音楽を聴き始める。

 

たぶん…10分遅れコース。

 

× × ×

 

定刻10分後に郡司(ぐんじ)くんが姿を現した。

 

「…待ったか?」

 

ワイヤレスイヤホンは外したけれど、郡司くんをわざと無視して眼を背ける。

 

「お、おい…高輪(たかなわ)」

 

もちろん無視し続ける考えなんかは無くって、

「やっぱり……郡司くんは遅刻魔なんだね」

と、彼を睨みつけながら……言って『あげる』。

 

「悪かったよ」

 

彼の謝罪を聞き流し、ベンチから立ち上がる。

 

× × ×

 

「おれが来たとき音楽聴いてたよな。どんなの聴いてたんだ?」

「……わたしが答えてあげるとでも思ってるの?」

「え」

「そういうとこなんだよねー、郡司くんは」

 

わたしがなにを聴いていたか、という問いは、拒絶。

 

だけど、さっきまで聴いていた楽曲を、歩きながらわたしは口ずさむ。

 

「その歌、なんて歌??」

「教えてなんかあげないから」

「……強情な」

「強情にもなるよ。わたしを待たせるの通算で何回目?!」

「え……。通算、って。それは、いつから……」

「高校入学時点から」

「……」

 

 

今年も残り少ない。

秋が深まりすぎて、重ね着しないと肌寒い。

 

今みたいな季節とは違う季節のことだった、けど。

 

……郡司くんに待たされたことで、同じようなシチュエーションの「過去」を、思い出してしまうわたし……なのだった。

 

 

「ねえ郡司くん」

「どうした、高輪」

「郡司くん――、『2週間』で、4回、遅刻したんだっけ」

「えっ?? 『2週間』って、なんぞ??」

 

――『2週間』は、『2週間』だよっ。

 

だけど。

言ってあげないと簡単には思い出してくれなさそう、だったから。

 

「高校2年のときの『2週間』に決まってるでしょ。

 分かるよねぇ?

 わたしと郡司くんが、交際してた――『2週間』。」

 

× × ×

 

郡司くんのグラスがもう空(から)になっている。

飲み干すのが早すぎ。

 

それに、

「――『新・幹事長と新・副幹事長の打ち合わせなんか、もうやってられねえ!!』って顔になってるね、郡司くん」

 

「……そんなことねぇよ」

 

「……」

 

「お、おいっ高輪っ」

 

わたしは軽く溜め息をついてから、

 

「――あまりにも時間を守らないのと、目に余るほどガサツだったのが、わたしから『別れよう』って言った原因だった」

 

唐突な爆弾発言であることは承知の上。

 

当然のごとく正面の彼は面食らう。

 

「だけど。…平気で時間を守らないで、しかもとってもガサツだった、っていうところを…わたしは、好きになっちゃったんだよね」

 

別れた理由と好きになった理由を言った。

別れた理由と好きになった理由……まったく同じだったんだよね。

 

「そして。4年の月日が経過しても、遅刻魔でガサツな郡司くんには……なんの進歩も見られない」

 

「…高輪」

「なあに」

「おまえのコトバの原理がまったく分からない」

「コトバの原理? あなたの造語?」

「ぞ…造語かどうか、なんてことよりも。おまえは…」

「郡司くん。」

「…」

「あのね。」

「…なんだよ。」

「5%だけ、『あの頃』に戻ってあげる」

 

キョトーンとして、なんにも理解できていないご様子の、

わたしの元カレ。

 

――ま、いいか。

 

「わたし、カラオケ行きたくなってきた。

 14時になったら――行こうよ。

 もちろん、ふたりで。」