【愛の◯◯】ありふれた伝説と非凡なアート

 

どうも、利比古です。

昨日は、お休みを頂きました。

おかげさまで、ブログの中の人も、「充実した取材旅行ができた!」と言っておられました。

取材旅行の成果、ブログに反映させてほしいですよね。

 

さて、ぼくたちの物語も再開だな……と思っていたところ、

 

羽田くん!! ボーッとしてないで、手伝ってよ』

 

という叫び声が、耳に届いてきちゃった。

 

叫び声の主(ぬし)は、3年連続クラスメイトの野々村ゆかりさんだ。

今は放課後。学校祭の前日なので、クラスの出し物の準備がハイピッチで行われている。

野々村さん、学級委員長でもなんでもないのに、すごいやる気を見せている。

まるで陣頭指揮だ。

 

「すごいね…きみは」

思わず、ぼくは野々村さんに言ってしまう。

ぼくの「すごいね」発言に対して、彼女は、

べ、べつにすごくなんかないんだからねっ。無駄口叩いてないで、手を動かしてよっ」

と…視線を逸らせながら。

 

なーんか古典的なリアクションだったな、彼女…と思いつつも、散らかっていたものを整理整頓しようと、手を動かし始める。

 

ところでぼくのクラスの出し物はクイズラリーで、当日は校内のチェックポイントにクイズの書かれた紙が貼られる。

クイズの中にはボツになったクイズもあって、そのボツ問題が書かれた紙が、机の上に無造作に積まれていた。

ぼくはそのボツ問題の山の中から、ひとつだけをつまみ出した。

 

「…そんなことしてるヒマないでしょーが。羽田くんはもっとわたしにハッパかけられたいの!?」

野々村さんが怒って近づいてくる。

が、

「――『告白伝説』の問題、ボツにしちゃったんだね」

と、ぼくは言う。

 

こんな伝説があるのである。

 

『学校祭2日目の午後3時以降に『伝説の樹』の下で告白した生徒は、相手と結ばれる』

 

…ベタ過ぎて、どうしようもない伝説ではあるのだが、

「どうしてこの問題はボツになったのかな? 野々村さん」

「…そりゃ、なんの変哲もない伝説だからでしょ。いろんな学校にそんな伝説ありそうだし。それに、この告白伝説、かなりウチの生徒に浸透してるから。だからクイズとして出したって、面白くならないよ」

 

ふうむ…。

 

依然イラつき気味の野々村さん。

彼女を、ぼくは、ジッと見る。

 

「……羽田くん、??」

 

イラつきに戸惑いが加わった野々村さんをよそに、ぼくは再び手を動かし始める――。

 

× × ×

 

案外、作業は早めに終わった。

 

早めに終わったので、ほかのクラスの様子を「視察」してみることにした。

 

× × ×

 

理系クラスのゾーンに足を踏み入れると、

「おや、羽田くん」

と、文武両道・品行方正で有名な桐原高校が誇るスーパースターの外江(とのえ)くんが、教室の入り口からぼくに話しかけてきた。

「偵察かい?」

「偵察というより、視察かな」

「なるほど」

そう言ったかと思うと、外江くんは笑顔で腕を組み、

「羽田くんなら、歓迎するよ」

と。

…羽田くん「なら」って、どういうことなのやら……。

 

× × ×

 

若干奇妙な言い回しの外江くんに疑問を覚えつつも、ぼくは彼の教室に入っていった。

 

「アート茶屋、だっけ」とぼく。

「そうだよ。作品展示も、ほぼ完了してる」と外江くん。

「……力作揃いだね」と、展示されたアート作品を観て、感嘆するぼく。

「芸術を、感じるかい?」と、ぼくの横から外江くんが言う。

 

「芸術を、感じるかい?」なんて、ベタベタな決めゼリフみたいだ。

そういう決めゼリフめいた言い回し、外江くん、好きなのかな……と思いつつ、とある生徒の描(か)いた人物画に眼を留めた。

わが校の制服に身を包んだ女子生徒が描(えが)かれている。

言うまでもなく絵心ゼロのぼくにも、的確な人物写生であると感じられる。

巧いなあ。

ここは理系クラスなんだけど、こんなに巧いのなら、芸術系の学科を志望している子なのかもしれない。

 

「いいね、これ」

素敵な人物画を指差しながら、外江くんに言ってみた。

 

……なぜか、外江くんはコメントを返してくれない。

 

およそ30秒から40秒が経過したのち、

「……だれが観ても、『いいね』と言うと思うよ」

という微妙な発言を残して、外江くんはぼくのもとを離れていってしまった。

 

教室を出ていく彼の姿を眼で追うぼくに……3人組の女子生徒が、接近してくる。