普通の時間に起きて、筋トレをした。
――この調子なら、そろそろ、お外にランニングに出ていけるかもしれない。
今週末あたり――お邸(やしき)の近所を走ってみようかしら。
× × ×
シャワーを浴びた。
アツマくんとあすかちゃんが作っておいてくれた朝ごはんを食べた。
当然の流れで、食後のホットコーヒーを飲む。
……わたし専用のマグカップを両手で持ちながら、考える。
……利比古のことを、だ。
今月は、利比古の通う桐原高校で、学校祭が催される。
学校祭で盛り上がるのはいいんだけど、もう高3の秋。
受験シーズンも、到来しているのだ。
『ここらへんの大学を受けたい』と、直接言ってきたことはある。
その後、第一志望校が固まったかどうかは、知らない。
わたしがわたしのことで精一杯だったから。
不調で、余裕がなくて、弟のことまで気が回らなかった。
「姉なのに……ね。」
マグカップを両手で持ち上げて、ひとり呟く。
もっと。
もっと、利比古に対して、進路希望調査を……行っていくべきなのかな。
姉として。
× × ×
その夜。
部屋をノックして、
「ちょっといま、いいかしら? 利比古」
と言う。
『大丈夫だよ』という声のあとで、ドアが開かれる。
× × ×
「できれば、浪人はしたくないな」
利比古からこんなことばが発せられた。
「一発で決めたいよ。でないと、いろんなところに負担や迷惑がかかるでしょ?」
とも。
利比古は続けて、
「高望みはしない。手が届きそうな範囲の難易度の大学を選ぶ」
と。
「……具体的には、どんな大学を?」
訊くわたし。
3つの大学が挙げられた。
「……ほんとうに、高望みしません、って感じね」
「わかってくれる? お姉ちゃん」
「ええ。あんたの気持ち、わかるわ。
――3つぐらいに絞ってるのなら、そこから、通いやすさとか設備の充実度とかの観点を加味して、第一志望を選ぶ……って感じになってくると思うけど」
「うん。その通りだよね」
「……理想は、今月中に第一志望を固めることよね」
「お姉ちゃんの言う通りだ」
「わたしも、できるかぎり協力したいわ。
……こんなコンディションだから、どこまであんたのチカラになってあげられるか、わかんないけれども」
「お姉ちゃん」
「……」
「ぼく――ほんとうに頼りたい、って思ったときだけ、お姉ちゃんに頼ることにする。もう18歳なんだ。基本、じぶんのことはじぶんでする」
頼もしいことば。
…なんだけど。
「こころがけは……頼もしいけど。
わたしにも……考えてることが、あって」
「? 考えてる、っていうのは??」
ハンサムな弟を見つめつつ、
「家庭教師を……つけてあげたいの」
と言うわたし。
「!? 家庭教師って。お姉ちゃん……」
「フリーパスで大学に受かれるわけじゃ、ないんだし」
「そ、それはそうだけど」
「油断してると……滑り止めにも滑って、あんたの意向とは裏腹に、予備校に入る羽目になるかもしれないし」
「こ、怖いこと言うんだね」
「言うから!」
わたしが大きい声を出したからギョッとしている弟に対して、
「候補。候補もね……絞ってるのよ、わたし」
「だ……だれを、考えてるの」
「まずは、川又さんよね」
「う、うん」
「あんたのパートナーみたいなものなんだしね。
だけど……」
「……??」
「川又さんのほかにも、あと2人ぐらい、サポートをお願いしたいと思ってて」
「ええっ…」
「あと2人の、2人っていうのは…」
「…だれ、なの??」
「……さやかと、アカちゃん」