月曜日。
新しい週のはじまり。
そしてきょうから、わたしの大学の後期も始まる。
始まってしまう。
前期の途中から、不登校状態になってしまっているわたし。
無理しない。
回復を待つ。
そのスタンスが、基本。
なんだけど…。
× × ×
とりあえず新学期の初日は、邸(いえ)でダラダラゴロンと過ごした。
――で、夜。
ダイニング・キッチンに行くと、やはり流(ながる)さんが、ノートPCのキーボードをカタカタと打っていた。
ゆっくりと歩み寄り、
「がんばってますね」
と声をかける。
わたしに振り向いて、
「愛ちゃんかぁ」
と言いつつ、ほっぺたをポリポリと掻く。
そんなに恥ずかしがらなくても。
「――もっと堂々としたって、いいじゃないですか」
「えっ?」
「せっかく、文芸を創作してるんだから」
「…んーっ、でもまだまだ、他人に見せられるような作品にはなってないし」
「そんなこと言わないっ」
『めっ!』という勢いで、流さんをたしなめるわたし。
彼は少し動揺の色。
畳み掛けるようにして、
「流さんって、タイピングお上手ですよね。とっても滑らかなタッチタイピング。わたしには無理」
「……そこまでホメちゃうか」
「はい。ホメますよ」
「……」
流さんの背後に立つ。
至近距離。
流さん越しにPC画面を眺めつつ、
「早く読んでみたいです、わたし」
「ぼくの書いたものを?」
うなずいて、
「区切りがいいところまで書き上げたら、プリントアウトして、わたしに見せてくださいよ」
「…編集者モードだな、愛ちゃん」
「わたしを編集者にさせてくださいよ」
「ん…」
「いいでしょう??」
「……明日美子さん。明日美子さん、元は編集者だったんだし――」
「――まあそうですよね」
だけど。
「ですけど、明日美子さんに頼るんじゃなくて、わたしを編集者にさせてほしいなー、と、そう願っているわけでして。
わかってくれませんか?」
「どうしても……なりたいの? 編集者役に」
「はい。なりたいです」
「でもきみは……病み上がりというか、なんというか……でしょ」
「流さんの小説をチェックするぐらいなら――なんてことないです」
「……そっか」と言って、彼はふたたびPCに向き直る。
明確な答えが返ってこなくて、不満。
その不満も相まって、『イジワルっ子になっちゃおう』と決意して、
「――病み上がりって、流さん言いますけど。
たとえ病み上がりだとしても、わたし――ちょっとがんばってみよう、って思うんですよ」
「……なにを、がんばるの??」
「講義に出席してみます」
彼が、驚いて、ふたたびわたしに振り向いた。
「そんな……。いきなり過ぎやしないか」
たしかに、不登校児が『学校に行こう!』といきなり決意するのは、唐突で不可解な印象を与えるのかもしれない。
でも…わたしは、そう思い立って。思い立ってしまったんだから、実行に移すよりなくって。
「もちろん、ダメもとですよ? 90分も教授のお話を聴ける自信なんて、ハナっからないです。ですけど、いったん決意したからには、やってみるしかないんだし」
マジメ顔で流さんは、およそ90秒間沈黙。
…それから、
「そのチャレンジは…いつにするの」
と訊いてきたから、
「あした行きます」
とわたしは答える。
流さんが眼を見開く。
「いきなりにいきなりを重ねて……大丈夫なの!? 愛ちゃん……」
彼の言う通り。
ではあるが。
「――勝負しませんか?
わたしが90分間教場に居続けられたら、わたしの勝ちということで」