生徒会室に来ている。
文化祭の取材のためだ。
生徒会長の飯塚新男(いいづか あらお)先輩が、わたしの眼の前に。
生徒会長の椅子にドッカリと座っている飯塚先輩。
「――水谷さんも大変だね。スポーツのことだけでなく、文化祭のことまで取材しなきゃならんって」
飯塚先輩が言った。
「この学校には、スポーツ新聞部しかないので」
ことばを返すわたし。
「新聞部はないけど、スポーツ新聞部はある」
「…はい。実質、わたしたちスポーツ新聞部が、スポーツのこと以外を報道する役目も担っていて」
「大変だなあ~」
「でも…生徒会だって、大変でしょう? 特に今は、文化祭シーズンなんだし」
「そうだね。水谷さんの言う通りだ」
飯塚先輩は、机の上で両手の指を組んで、
「とりわけ、今年の文化祭は、2日制で催されることになった」
と言う。
そうなのだ。
10月1日と2日の、2日連続開催になったのである。
「2日制になった……経緯は?」
メモ帳片手に訊いてみると、
「いろいろだよ」
という……いちばん困ったちゃんな答えが返ってきてしまう。
「か、会長っ、わたしは、『いろいろ』の中身が知りたいんですけど…」
「…だけどさ」
「…??」
「2日制のほうが、水谷さんも楽しいでしょ?」
……どうして、はぐらかすかな。
「フリーダンス」
「会長……フリーダンスが、どうかしたんですか」
「知ってるでしょ、2日目の最後にフリーダンスを設定したって」
「知ってますが……」
「2日目の最後まで待たされるから、必然的に期待は高まる」
「……ダンスに向けて?」
「そう。
何組カップルが誕生するのかな~~、って感じだ♫」
……その場を運営するのは、あなたたち生徒会でしょうが。
……ツッコミを入れても、仕方ないのか。
「あれ、もしかして水谷さん、おれの発言に呆れちゃってる??」
興味深そうに訊く飯塚先輩……であったのだが、わたしはわたしの目線を、部屋の隅っこのほうに向ける。
部屋の隅っこの辺りに、副会長の丸山先輩が居た。
なにゆえ、丸山先輩はすみっコぐらしみたいになっているんだろうか……。
疑問。
疑問なので、
「丸山先輩。どうしてそんな隅っこに立ち尽くしてるんですか??」
と、ぶつけてみる。
疑問をぶつけられた丸山先輩は苦笑い。
冴えないメガネだ…。
「…ぼくの出る幕はないかなー、と思って」
下向き目線で答える丸山先輩。
…副会長ですよね?
「…副会長ですよね? 丸山先輩は。もっと存在感をアピールしたっていいじゃないですか」
「いや、ぼくは、ここでいいんだ」
「ここでいい」って。
ちょっと、ありえない。
不機嫌な目線を丸山先輩に送りつつ、
「――副会長なんですから、取材に協力する姿勢を、もうちょっと見せてくださいよ」
と、不満を言う。
丸山先輩が苦い顔になる。
――丸山先輩は、昨年度は、生徒会の書記だった。
上のふたり――すなわち小野田前・会長と濱野前・副会長が卒業したから、順番的には次の会長は丸山先輩だと思っていた。
少なくともわたしはそう思っていた、のだが。
あっさりと……飯塚先輩が会長の座につき、あっさりと……丸山先輩は副会長の地位に甘んじた。
いつまでもそんなポジションに甘んじてて、いいの!? って……わたし、思っちゃう。
副会長のまま卒業しちゃうにしても。
丸山先輩、完全に、飯塚生徒会長の影に隠れちゃってるんじゃん。
それってどーなのっ。
……「それってどーなのっ気分」たるわたしは、すみっコぐらし陰キャ状態の丸山先輩に向かって、
「丸山先輩。棒立ちはやめて、もっとわたしたちのほうに寄ってきてください」
と、請(こ)う。
「えっ……でも」
「丸山先輩!!」
「え、えっ」
「すみっコぐらし陰キャは卒業してくださいよ!!」
「み、水谷さん……??」
「すみっコぐらし陰キャを卒業できたら、彼女だってできるかもしれないのに!!」
――怯える、副会長。
言い過ぎだったかな??
……ううん。
言い過ぎじゃなかったと思う。