【愛の◯◯】吐き出せ! 懸案事項

 

マクドナルドの袋を抱えながら、サークル部屋を解錠する。

奥のほうの椅子に腰掛け、ハンバーガーとチーズバーガーを2つずつ食って、それからLサイズコーラを喉に流し込む。

…他人にはあまりオススメできない食事をとったのち、前から聴きたいと思っていたアルバムをCD棚から取り出して、ステレオコンポにセットする。

流れ出す音楽に耳を傾けながら……しばし、考えごとに耽(ふけ)る。

 

えっ?

なんの考えごとなんだ、って??

 

……秘密にさせてください。

 

× × ×

 

アルバムの再生が終了して、し~んと静かになった部屋。

 

その部屋に、ノック音が響く。

 

おれは、ノックした張本人を推理する。

 

長年の経験の賜物(たまもの)か、だれがノックしたのかを推理する能力が、だいぶ身についた。

 

星崎でもない。

八木でもない。

ムラサキでもない。

茶々乃さんでもない。

新入生の鴨宮くんやリリカさんとも違う。

 

――だとすれば。

 

× × ×

 

「やっぱり梢さんでしたか。ビンゴだった」

 

ノックの張本人は、東本梢(ひがしもと こずえ)さん。

おれより年上でなおかつ下級生の、女子大学生だ。

 

「アツマ君、おはよー」

「…いま、何時だと思ってんですか」

「何時だっけ?」

梢さんは腕時計を見て、

「あっ、正午はとっくに過ぎてた」

と気づく。

 

「アツマ君お独(ひと)りなわけ? 孤独だねえ」

「べつに孤独では…」

じーーーっ、とおれの顔を梢さんは見たかと思うと、

「冴えてない。うん、冴えてないよ。きょうのきみ」

 

ぬな。

 

「なにか、懸案事項でも抱えてんじゃないの?」

 

……ぬうっ。

 

「こんな部屋で独りぼっちで懸案事項抱え込んでたら、心身ともに毒だよ」

「……」

そこはかとなく艶(つや)っぽい笑いかたで、彼女は、

「――打ち明けてみなよ。私に、さ」

と言ってくる。

打ち明ける……?

「打ち明ける……?」

「吐き出してごらんよ。きみの懸案な事項を」

「……梢さんに、おれの事情を、ですか」

「そう。今なら、ほかにだれも来ないでしょ、このお部屋♫」

 

打ち明け……。

梢さんとふたりぼっちのこの空間で……か。

 

ううむ……。

 

ためらっちまう。

 

ためらっちまったおれに対し、彼女は『優柔不断だなあ……』と言いたげなオトナ顔で、

「打ち明けてくれないなら、きみを私のサークル部屋に連れてくよ?」

と。

 

「サークル部屋って……『西日本研究会』」

「きょうはねえ、『発表会』の日なのよ」

「発表会……?」

「日頃の研究の成果を、会員が発表」

「そんなこと……やるんですか」

「やるの」

「……」

「発表のテーマ、なんだと思う?」

「……わかるわけないじゃないですか」

 

梢さんは苦笑しつつ、言う。

「発表は――テレビ西日本について。」

 

!?

 

てれび……にしにっぽん!?!?

 

なんぞ!?!?

 

「うろたえちゃってぇ~~」

「梢さん…」

「なあに」

テレビ西日本って…なんですか!? 関西地方のテレビ局……ですか??」

 

すると彼女は腕組みしながら、

「ふっふっふ、違うんだなあ。関西のテレビ局じゃないんだよねー」

「ないのなら、いったい、どこの…」

「福岡」

「福岡……? 福岡県……??」

「福岡県福岡市早良区

「……」

「でも発祥の地は、北九州市♫」

 

 

……。

 

 

「――梢さん。」

「ん」

「打ち明けます。ここで、おれの、懸案事項を。」

「おー、その気になったか」

「『西日本研究会』に連れ込まれるのは……どうしてもイヤなので」

「あーあー」

 

 

息を。

息を、大きく吸って。

 

「……おれの、妹のことなんですけどね。

 妹に、妹に……どうやら……」