【愛の◯◯】これがわたしの口封じ

 

ミヤジから、ミヤジの大学で開催されるという音楽フェスに誘われ、わたしは誘いに乗った。

 

問題があった。

フェスの開催日は今週の土曜日(27日)。

その日は実は、わたしんちの近所で、恒例の夏祭りがあるのだ。

 

バッティングというやつである。

 

ミヤジとともにフェスに行ったら、当然夏祭りには参加できない。

 

× × ×

 

夏祭りにはわたしの知り合いが多く参加することになっている。

 

『急遽、同日の音楽フェスのほうに行くことになったので、夏祭りには行けなくなった』。

 

……ほとんどドタキャンである。

 

お断りの電話・お詫びの電話を関係各所に入れなければならなくなった。

 

× × ×

 

だからきょうは朝からてんてこ舞いだった。

 

いろんなところに電話をかけた。

案外わたしには友だちが多いのだ。

 

同い年の友だちだけでなく、後輩もいる。

スポーツ新聞部の後輩のなかで、2年生の3人が、去年に引き続いてお祭りに来てくれることになっていた。

ヒナちゃん・ソラちゃん・会津くんの3人。

卒業してから、2年生トリオにはほとんど顔を見せられていなかった。お祭りの日が久々の再会になるはずだった。

わたしのほうからの一方的な約束破りみたいになって……申し訳無さでいっぱいだった。

 

良心の呵責(かしゃく)とともに、2年生トリオに立て続けに電話をかけた。

 

3人とも、わたしのドタキャンをすんなりと許容してくれた。

 

持つべきものは後輩……か。

 

あっちは気にしてなかったとしても……埋め合わせは絶対必要だな。

 

× × ×

 

連絡ノルマをどうにか達成して、勉強机の椅子で一息つく。

 

勉強机から、2022年度になってからの校内スポーツ新聞バックナンバーを取り出す。

 

わたしが卒業して居なくなってからの校内スポーツ新聞。

 

ヒナちゃんが担当しているテレビ欄。

番組紹介文のユーモアが増している。偉い。

 

ソラちゃんが書いた「村上宗隆の解剖図」なる記事。

会津くんが書いた「サッカーワールドカップ 1970~1994」なる記事。

どちらの記事の文章も、達者だ。

ソラちゃんの文体も会津くんの文体もどんどん洗練されてきている。

偉い偉い。

 

それから、新入部員の本宮なつきちゃんも記事を書き始めている。

どこのだれかさんの部長とは違って、将来有望だと素直に感じる。

 

× × ×

 

リビングで利比古くんを見かけたので、声をかけた。

 

「おはようー」

「もう正午過ぎてますよ……? あすかさん」

てへぺろぺろ」

 

…肩を落とさないでよ。「てへぺろぺろ」で。

 

…わたしは気を取り直し、

「土曜日の夏祭りのことなんだけどさ…」

「なんですか?」

「…行けなくなっちゃった」

「エッそんな! ……どうして!?」

 

んー。

 

「理由は、わたしが音楽が好きだから」

 

彼は眼を丸くして、

「ぜ、ぜんぜん理由として成立してないですよ」

 

「ごめんごめん。

 利比古くん。

 どうしても知りたかったり、する?」

 

「……」

 

「知りたかったら、理由を耳元でささやいてあげようか

 

……なななっ!!!

 ば……バカ言わないでくださいよっ、あすかさん!!!

 

 

よし。

これがわたしの、口封じ。