きょうは日曜日。
そして、ぼくの誕生日でもある。
朝から、戸部邸の面々に相次いで祝福された。
嬉しかった。
プレゼントも、いろいろ。
お邸(やしき)のメンバー以外からも贈られてきたプレゼントをチェックしていたら、午前中は瞬く間に過ぎていったのだった。
× × ×
昼食後。
川又さんからの誕生日プレゼントである本を、じっくりと読んでいたら――コンコンと部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。
たぶん、姉のノック音だろう――と思って出てみたら、やっぱりそうだった。
「取り込み中かしら」
「そんなことないよ」
「じゃあ、お邪魔してもいい?」
「もちろん」
部屋に入ってくるなり、床に腰を下ろした姉。
体育座りみたいになっている。
「――ちょっと疲れてる? お姉ちゃん」
「どうしてわかったの」
「そりゃ消耗するでしょ。朝からあんなに激しかったんだし」
「激しかった……って、なに!?」
わかってないなあ。
「すごい勢いでぼくに抱きついてきたでしょ? 転ぶかと思ったよ」
「あ…あれは、純粋なる利比古への祝福の気持ちで」
「祝福してくるのはいいんだけど」
姉の顔を見つめて、
「病み上がりなんだから……お姉ちゃんは」
と、そっと言うぼく。
照れ顔になったあと、視線を少し逸らして、
「……そうよ。利比古の言う通りよ。わたしは、病み上がり」
と言う姉。
「そもそも、ぼくの部屋に来た目的は?」
訊けば、
「目的なんかないわ。理由ならあるけど」
と姉。
「理由…。『ぼくの誕生日だから部屋に来た』、ってわけか」
「どうしてわかるのよ」
「わからないほうが難しいよ」
「……」
少し視線を下げる姉を見かねて、
「消耗してるんでしょ? もっと、ゴローンとなったら??」
と促す。
背後にあるぼくのベッドを黙って眺める姉。
…ひとしきり眺めてから、
「あんたのベッド……借りちゃダメ??」
と訊く姉。
「積極的だね」
「い、いいでしょっ、姉弟なんだし」
まあね。
「まあね。…アツマさんのベッドで寝られるんだったら、ぼくのベッドでなんて、どうってことないよね」
「……さりげなく大胆なこと言うのね、利比古って」
「18歳になったんだし」
「でも高校生でしょ、まだ」
「高校生が、どうかした?」
「と、としひこぉっ」
× × ×
茶番めいてきたな……と思いつつ、ゆっくりと川又さんプレゼント本のページをめくる。
ぼくの背後では、ベッドで姉がゴロゴロ。
いったんしおりを挟んで、
「どう? 寝心地」
と、背を向けたまま姉に問う。
返事、ナシ。
「ぼくは、是非とも寝心地を教えてほしいんだけどなー」
もういちど、問うてみるぼく。
すると、
「利比古……。あんた、性格悪くなった!?」
という姉の声が聞こえてくる。
…わざとらしく苦笑いして、
「だれに似たのかなあ」
と、姉をイジメてみる。
「……わたし、怒る気力もないんですけど」
「敢えて、お姉ちゃんの弱みにつけこんだんだよ」
「ど、どこまでイジワルなのよ!? あんた」
「どうしてなんだろうなあ、誕生日だからかなあ」
「ぬなっ」
過ぎたるは及ばざるが如し…ということわざを思い出して、
「ごめんごめん、ぼくが悪かったよ、お姉ちゃん」
と謝る。
「性格ブサイクじゃ、ダメだよね」
と付け加え。
「そ、そーよ、性格ブスなのは、わたしだけでじゅーぶん」
ふう……。
ゆっくりと、ぼくは、ベッドでゴロ寝の姉に振り向く。
「――もっと近づいてほしかったり、する?」
ぼくは言う。
考え込む姉。
しょうがない姉だ。
椅子から降りる。
床に腰を落ち着ける。
姉の顔を優しく見守ろうと努める。
優しく見守りたい、というぼくの気持ちが伝わったのだろうか。
顔を淡く赤らめながらも、姉は視線を合わせてくれる。
床に足をつけて、ベッドを椅子代わりにする姉。
「…なんか、モジモジしてない?」
「し、してないわよっ」
「わかってる。冗談、冗談」