【愛の◯◯】大切な友だちだから、お姫さま抱っこだってする

 

愛の様子を見に、葉山が邸(いえ)にやって来た。

ただ……葉山の顔色がイマイチすぐれないように見えて、おれは引っかかりを感じた。

 

気になったので、

「調子、だいじょうぶか?」

と葉山に問う。

…微妙な間(ま)があいてから、

「だっ、だいじょーぶだから…」

と気丈に言う葉山。

 

信用できねえ。

 

「ここのソファに座って、ひと休みしてからでも――」

と促そうとするのだが、

「休んでられないっ」

と、突っぱねられてしまう。

 

「余裕あんまり無さそうだぞ、おまえ」

葉山の眼を見ておれは言う。

「あるわよ」

反発されるが、

「疑問だな」

と揺さぶりをかける。

「あ…あるからっ。戸部くんは、わたしに構わなくてもいいからっ」

なんじゃそりゃ。

「なんでそんなこと言う」

「就職活動……まだ終わってないのよね??」

「ああ」

「だったら……羽田さんの世話はわたしに任せてよっ」

 

強がり。

そうにしか見えない。

 

強がる葉山にどう対処するべきか、おれにはわからなかった。

 

おれのほうがラチがあかないでいると、スタスタスタ…と、葉山は、階段に向かってまっしぐらに突き進んでいってしまった。

 

ううむ。

 

× × ×

 

リビングのソファで天井を見上げながら、就活を含めた今後のことについて考えをめぐらせた。

 

おれの将来の見通しは暗い。

こころの風邪ひきさんになっちまった愛の今後だって、心配だ。

 

……未来(さき)のことの不安は渦巻くが。

 

葉山……。

 

やっぱり、あの顔色は、だいじょうぶじゃないんじゃねーのか?

 

気になって仕方がない。

いま、あいつは愛の部屋にいると思うが、愛の部屋でいきなりブッ倒れたりしたら……。

 

ダメだ。

愛と同等に、葉山の様子も、気になって仕方がない。

腰を上げねば。

 

 

× × ×

 

不安は的中した。

 

階段を上りきったところで、葉山がうずくまっている。

 

「――おい。立てるか? 立つのもしんどいか??」

うずくまる葉山に声をかけると、

「ちょっと……しんどいかも」

と弱く言われてしまう。

弱々しい声で、

「羽田さんの部屋には……入ったの。羽田さん眠そうだったから、寝かせてあげて、彼女の入眠を見届けてから……いったん、階下(した)に下りようとして」

と、いきさつを語る葉山。

 

近寄って、左肩に右手をそっと置いて、

「そういうことか。よくわかった。

 ――しゃべりすぎんなよな。しゃべりすぎたら、もっと苦しくなっちまう」

と葉山をいたわる。

 

その場に崩れ落ちそうな雰囲気なのが、気にかかった。

 

なので。

 

「葉山…すまん」

と言ってから、すぐさま――、

からだを、抱きかかえる。

 

とっ、戸部くん!?

「…緊急事態だから。許せ。」

 

葉山のからだはもちろん軽い。

余裕でお姫さま抱っこできる。

がばあ、と葉山を持ち上げる。

『許せよ…』と、葉山の耳に届かない声量で、つぶやく…。

 

 

× × ×

 

リビングまで運搬。

 

長いソファまで行って、お姫さま抱っこしていた葉山を寝かせる。

 

× × ×

 

ひと通りのことは、してやった。

 

おれに介抱されたのが恥ずかしかったのか、背を向けて、横向きで葉山は寝転んでいる。

 

「すまんな」

「……」

「残念なことに、お姫さま抱っこには慣れっこなんだよ――おれ」

「……なによ、それ」

「そういった経験が結構あってだな」

「だからなんなの」

「だよな。こんなことオープンにしたからって、なんにもならんのだよな。こっちの得になるどころか、気持ち悪がられて、損をする」

 

けれども。

 

「なあ、葉山よ。

 わかってほしいんだ、おれは」

「……なにを?」

「おまえは、大切な友だちだから。だから――必死になって、おまえを助けたいと思って、あんな行動に出た。大目に見てくれんだろうか。おれの気持ちを――わかってくれ」

 

 

1分近く押し黙る葉山。

 

当然のごとく、おれに背中を向けたまま。

 

 

「母さんを呼んでくるよ。おまえの看病には母さんのほうが適任だ」

「……戸部くん、」

「んー?」

「ちょっと待って、」

「なんだよ。」

 

「……………ありがとっ

 

「…どーいたしまして。」