【愛の◯◯】さやかさんのおれに対する評価と、葉山への電話でおれが言うべきこと

 

日曜午前。

 

とうとう今週いちども大学に行かなかった愛。

不登校に片足突っ込み状態の愛を見守るため、部屋に入っていく。

 

 

「…二度寝は、してなかったみたいだな」

「してない」

「偉いぞ、愛。ホメてやる」

「え、二度寝しなかったぐらいで??」

「ホメてやるったらホメてやるんだよ」

 

とにかく……気づかってやらんと。

 

「ま、日曜なんだし、ゆっくり休めや」

「わたし……今週、休みっぱなしなんだけど」

「そんなことどうでもいいだろが」

「どうして、どうでもいいと思うわけ…?」

 

あのなあ。

 

「あのなあ。おまえが気を張りつめ過ぎるのが、おれたちはいちばん心配なんだよっ」

「……」

「脱力だ、脱力っ」

 

曖昧に笑う愛……。

 

「元気が出てくるまで、ダラダラゴロゴロすればいいと思うぜ?」

「……そっか。」

 

愛が、ベッドにごろーん、と横向きで寝転がる。

 

よ、よし、その調子だぞ、愛。

 

 

――寝っ転がりながらも、

「さやかが、木曜と金曜に泊まりに来てたでしょ?」

と愛は話し始める。

「あのね。

 さやか、わたしにスゴいこと言ってきて」

「な…なんだよ、スゴいことってのは」

「…さやかにとって、アツマくんは、世界で3番目にカッコいい男のひとなんだって」

「さ…さんばんめ!?」

「3番目なんだから、上にもうふたりいるわけなんだけど」

「…そのふたりとは」

「2番目が、さやかのお兄さん」

「な、なるほど、兄さんLOVEだったもんな、彼女」

「で、1番目が――荒木先生」

「――女子校時代の音楽の先生だよな」

「そ。女子校で、さやかと、禁断の愛を繰り広げて」

「き、禁断の愛はねーだろっ。……さやかさんの片思いだったんだろ??」

「そーね。

 卒業するとき、さやか、ラブレターまで書いたのに。

 荒木先生、ハッキリしない反応で。

 禁断の関係は、宙ぶらりんのまま。

 早くなんとかしないと、さやかは東大を卒業しちゃうし、荒木先生は別のパートナーを見つけちゃうわよ」

 

か、語るなぁ、おいっ。

 

「……。

 わたしがこんな調子じゃなかったら、荒木先生にお説教しに行くのに」

「いや、どうやってお説教に行くんだよ」

「もちろんOGの名目で母校に突撃しに行くのよ……」

「物騒な」

「……もっとも、そんなふうな気力なんて、いま、持ってないんだけどね」

 

弱く…愛は、苦笑い。

 

 

× × ×

 

おれはおれの部屋に戻る。

 

電話「すべき」相手がいたので、スマホの電話帳をスクロールする。

 

× × ×

 

「もしもし。葉山、おはよう」

『おはようー、戸部くん』

「突然、悪いな」

『いいのよー。そろそろ、あなたのほうから電話かけてくるタイミングなのかな…と思ってたとこ』

「――鋭いな」

『でしょでしょ~』

「……」

『どの用件から話そっか。……そうねえ、きょうのJRAのオススメ馬券?』

「…バカ言うなっ」

まったく、この女は…。

『…そうよね。冗談もほどほどに、よね』

「ああ」

『じょーだんじょーだん、トーセンジョーダン

はぁ!?

天皇賞勝ってるのよ、トーセンジョーダン

 

ど、どこまでもふざけやがって。

 

ただ……ただ、葉山のふざけっぷりに青筋を立てている状況では、ない。

 

「……頼みごとがあるんだよ、葉山。おまえに」

『そう来ると思ってた』

「知ってるよな……愛がどうやら、こころの風邪ひきさん状態になってるっていうこと」

『――知ってる。』

「葉山……。

 おまえの調子がいいときで、いいから。

 おれたちの邸(いえ)に来て……愛をなぐさめてやってくれんか」