大学のキャンパスへ向かう電車のなかで、きのうのおねーさんとのデートを振り返る。
…中途半端だったかも。
中途半端というのは…遊びかたが、半端だったというか。
おねーさんを楽しませて喜ばせる方法が、もっとあったのかもしれない。
だいじょうぶなのかな、おねーさん。
テンションに違和感をおぼえた。
マンションまで行ってみるべきだったのかもしれない。
…ううん、あんまりベタベタとついてくるのも、逆効果なんだよね…きっと。
だいじょうぶなのかな、っていう疑問はあるけど、
おねーさんなんだから、たぶん、だいじょうぶだ。
信じよう。
× × ×
『PADDLE』の編集室に顔を出すつもりだった。
ところが、駅からキャンパスへの道中で、見知った男子に出くわして、予定は大幅変更になった。
――ミヤジくんである。
「ミヤジ!? 奇遇!!」
「……そうだな」
「土曜に講義のコマが入ってるパターン!?」
「……ズバリ」
「あんたのところの二流大学も、やるねえ」
「……なんじゃそりゃ」
わたしがさりげなく「二流大学」と言っても、びくともしない。
さすがのミヤジ……。
「講義、終わったの? それとも、これから?」
「終わった」
「じゃあせっかくだし、どっかでお茶でも飲もっか」
「は!?!?」
「なんで目が点になってんの、おかしいよミヤジ」
「や……男女ふたりきりで……喫茶店とか、そういうのは」
わたしは口笛を吹いた。
「どうしてこのタイミングで、口笛なんだよ!?」
「ねーねー、ミヤジー、さっきの口笛、どんな鳥の鳴き声に似てると思った??」
「なっ…!」
× × ×
「某エクセルシオールなカフェに、わたしたちは落ち着いたわけだけど」
「……」
「ここでミヤジに、告知」
「告知??」
「実は、今回は――やや、短縮版になっちゃうの」
「――つまり、アレか。
土曜日恒例の短縮版ブログ記事で、文字数1200程度を目指す――と」
「なんでそんなに勘がいいの。野鳥の勘!?」
「う、うるさいぞ、あすか」
「――ねぇ」
「こ、今度はなんだ」
「情報、っていうものは、どこからともなく流入してくるものであって」
「…??」
「ミヤジのプライベート的なところも、案外『筒抜け』でさ」
「つ…筒抜け、とは」
「ひとり暮らししてるんだってね、あんた」
「!!」
「こら~。席を立たない立たない。ほかのお客さんに迷惑かかるじゃん」
「……どこから、漏れたんだ」
「ミヤジ、おすわり」
「く……!!」
「山手線の中なんでしょ? しかもアパートでなくマンション。あんたのご家族も大盤振る舞いなんだね」
「……親父が、『環境を変えたほうが勉学に集中できる』って」
「その理屈おかしくない!? 誘惑だらけの環境じゃん、逆に」
「僕は……親父の言う通りだったと思ってるよ」
「ほんとぉ!?」
「野鳥観察ぐらいしか、趣味ないし。誘惑だらけと言われても、ピンと来ない」
「――欲がないんだね、ミヤジって」
「ありすぎるよりは、ないほうが良かろう」
「――男の子っぽくないよ」
「バカなこと言うなよ、あすか」
「むぅーっ」
「…なんだその表情」
「ミヤジ」
「…?」
「あんたの偏差値、48」
「……良く知りもしないで」