【愛の◯◯】たすけて梢さん たすけて短縮版

 

面接が終わると、疲れがドッと湧き出てくる。

 

事務的な面接だった。

事務的な上に、拍子抜けするほど短時間で終了してしまった。

 

つまり――手応えがない、ってことだ。

またしても、見込み薄。

 

ヤバい。

もう5月中旬だぜよ。

 

大学の同期……。

下原くんにも川原くんにも内定はとっくに出ているし、

星崎姫にだって……出ている。

 

取り残される。

どんどん、どんどん。

 

× × ×

 

スーツのまま学生会館へ。

ロックを解除して、サークル部屋へ。

 

音楽を再生する気力もない。

無音の部屋で、ソファにへたり込む。

 

就活が茨(いばら)の道すぎて、思考が混乱してくる。

星崎が内定出たっていう、名古屋の芸能プロダクションって、なんていう名前だったっけ……とか、些末なことを考え始める。

 

 

――参りまくっているおれの耳に、ノックの音が届いてきた。

 

フラフラしながら入り口にたどり着き、ドアを開けてみたら、そこに立っていたのは、東本梢(ひがしもと こずえ)さんだった。

 

梢さんは、社会人経験を経て大学に入り直した、謎の女子大生だ。

 

…彼女の大人びた眼もとに視線が行ってしまって、おれは恥ずかしくなる。

 

「ヤッホー、アツマ君」

「……元気ですね」

「元気200倍」

「あはは……」

「きみは、元気8割引きだ」

「8割引きって」

「明らかにくたびれてるじゃん」

「あぁ……。なるへそ」

「なるへそ、じゃないよ。

 アツマ君、なんと、きょうは――」

「……きょうは??」

「――短縮版なのだ」

 

???

 

「えーっと、つまりそれは」

「私だって、ブログの管理人さんと、ホットラインが繋がっているんだよ」

「ホットライン?」

「連絡、来たってこと。

『土曜日です。例によって短縮版にします。1200字程度でよろしくお願いします』

 っていう、連絡」

 

…うつろな眼でおれは、

 

「…助かった」

 

と言ってしまう。

 

「助かった!? ――だいじょぶ!? 相当ヤバいんじゃないの、きみ」

「ハイ、ヤバいです」

「涙声みたいじゃん」

「泣いてはいませんけど…」

「泣いてはいないけど、無い内定

「…なんでそんなにうまいこと言えるんですか。おれは梢さんのこと、どこまでも尊敬しますよ…」

「リスペクト!? やったあ」

「……」

「とりあえずさあ、この部屋出て、私らの『西日本研究会』に来なよ」

「…ハイ」

「お~素直」

 

素直にも、なりますよ……。

こんだけ問題山積みなんだから、つい……梢さんみたいな女性(ひと)には、すがりつきたくなっちまう。

 

「アツマ君。私らのサークル部屋に、いいものがあるんだ」

「タコ焼き……とかですか?? 『西日本』だけに」

「残念ながら、食べ物ではなく」

「食べ物じゃないのなら、いったい……」

鉄道模型

「!?」

「でっかい鉄道模型が来たんだよ~、ウチの鉄オタが大枚はたいて買ったんだ。…知らない? サンダーバードっていう特急。昔は、スーパー雷鳥サンダーバード、って言ってたんだけどさ――」