夢を見た。
アツマくんとの夢。
お互いの、からだとからだを、重ね合わせる夢。
アツマくんと、ひっついていれば、もうそれだけで良かった。
例えば――夏の初め、冷房の弱く効いた部屋で、お互いに寄り添い合って、身を任せ合う。
彼のからだがわたしに馴染むのが、最高に心地よくて。
ただひたすらに幸せだった。
なにもしないで、なにも言わないで、寄り添い合いだけで過ごす。
それが……いちばんのゼイタクで。
いつしか、わたしはうたた寝してしまっていて……眼が覚めたら、彼のほうは、わたし以上に寝入っていて。
彼の寝顔を見つめることも、わたしだけに許された、幸せで。
そういう時間を、今までは……今までは、作ることができていたのに。
スキンシップのない連休を過ごして、
逃げるように、
お邸(やしき)を……アツマくんのもとを……離れた。
× × ×
きのうの土曜日。
アツマくんといっしょに、中野駅を出たとき、
「信じてる。おまえが、ひとりでやっていけるって」
と言われた。
痛いところを突き刺されるような感触があった。
わたしの狼狽(ろうばい)を察知したのか、アツマくんまでもが、焦るような表情になって。
気まずく……マンションまで歩いた。
玄関先で別れて、部屋に入って……落ち着きを少しも取り戻せず、不安のようなものがグルグルグルグル脳内を渦巻いているのも止められなかった。
× × ×
どんどん、ひとりでやっていけなくなってきている。
やるべきことが、できていない。
そう。
いちばん、やるべきことが。
それは、つまりは、
学業と生活の両立。
……サボりぐせが、エスカレートしている。
講義への出席頻度が、どんどん落ちている。
単位を取るのをあきらめた講義も、いくつかある。
学業で、わたしがなにかを「あきらめる」なんて……生まれて初めて。
電車でキャンパスに行くのすら億劫な日も、増えた。
机の上に……教科書や本が散乱している。
読めないまま、散らかしているのだ。
グチャグチャになった書籍類のなかには、日記帳も混ざっている。
毎日、日記をつけよう…って、あんなに張り切っていたのに、投げた。
…なんだか、最近のわたし、いろんなものを投げ出して、あきらめてばっかりな気がする。
ひたすら、下降線……。
× × ×
孤独な日曜日。
生まれて初めて、インターネットカフェに行った。
コーヒーを飲み続けながら、漫画単行本のページをめくり続けた。
ストーリーが頭に一切入ってこなかった。
1時間足らずで漫画をあきらめて、ネットサーフィンを始めた。
無為な時間が積み重なっていく。
× × ×
精算して、階段を上がって、外に出ると、やけに眩しかった。
お陽(ひ)さまの光に、少しイラッとする。
× × ×
インターネット上で、だれかが、だれかやなにかに怒っている。
ネットだけじゃない。
どのメディアでも、だれかが、だれかやなにかに怒っている。
懲りることもなく。
意見の内容にもだけど、「怒る」という行為自体に、疑問を感じる。
「あなたはどうしてそんなに怒っているの?」って。
不可解なぐらい、世の中は怒りで溢れている。
× × ×
眼に映るあらゆる対象に疑問を抱きながら、マンションに帰っていく。
じぶんの部屋の玄関ドアを乱暴に閉める。
疑問が脳に詰まっているせいか、立ち尽くしてしまう。
立ち尽くして……次にすることを、思い浮かべられない。
× × ×
心ここにあらず状態で、食事を作る。
夕ご飯のつもりだった。
だけど、時計を確認したら、16時過ぎだった。
…取り掛かってしまったものは仕方ないと、あきらめて、ガスの元栓をひねった。
おかずをボロボロこぼしながら食事をした。
お箸を行儀よく使うことすらも、あきらめてしまった。
こんな、投げやりな食事なんて……美味しいわけがない。
× × ×
どうしちゃったんだろうな……わたし。