どうも。
松浦裕友(まつうら ひろと)といいます。
下の名前、知っていないと読めないですよね。
おれは、広島県出身の、大学3年生。
政治を経済する学部で学んでおります。
そして、『漫研ときどきソフトボールの会』という、とてつもなく独創的な名前のサークルに所属しております。
漫画を研究しつつ、ときどきソフトボールで汗流し……。
とてつもないコンセプトだ。
× × ×
サークルの3年生の主力は、おれを含め約3人といったところ。
・おれ
・郡司健太郎(ぐんじ けんたろう)
・高輪(たかなわ)ミナ
…この3人な、わけですが。
郡司健太郎と、高輪ミナ。
この男女ペア、少々特殊でして。
というのは、腐れ縁というか因縁というかなんというか…ふたりは、同じ高校の同級生でもあったわけです。
神奈川県の高校なんですが、学校名は忘れました。
ともかく、高校時代から、郡司と高輪は互いを知っているわけです。
火のない所に煙は立たぬ、といいますが。
郡司・高輪ペアは……果たして、高校の同窓「というだけの」関係なんでしょうか!?
えー、いささか、興味本位ではあるんですが。
高校時代、どういうふうに「絡んで」いたのか。
不埒にも、おれは気になってしまっているのです。
ぐ、具体的には……「一時期ふたりは交際していた」、とか……!
× × ×
「松浦くん、わたしの顔になにかついてる?」
高輪の指摘に、おれはビビる。
高輪はニヤついた顔で、
「漫画雑誌を読むのに集中できてないね。頻繁に雑誌から顔を上げたり、さ」
たしかに、集中できていない。
モーニングを読むかたわら、真正面の高輪の存在が気になってしまっている。
いや、違う。高輪だけ、なのではない。
いま、おれの正面には、高輪だけではなく、郡司も座っているのだ。
…郡司、そして高輪。
神奈川の高校同窓コンビの存在感が、おれに迫ってくる。
ふたり隣り合っているから、なおさらだ。
もっとも、郡司のほうは、となりの高輪のことなど、さして気に留めてはいないご様子ではあるのだが(あくまで、個人の意見として)。
…おもむろに、高輪が、郡司のほうに顔を向けた。
そして、
「郡司くん、ソッポ向かないでよ」
と攻撃を開始していく…。
「おれは、窓から見える桜の木を味わっていただけだが」
「ウソでしょ。ぜったいにそれはウソだよ郡司くん」
黙る郡司。
「また、部屋で手持ち無沙汰!? 読みたい漫画のひとつやふたつもないわけ!?」
郡司は視線を高輪に傾けるが、
「ソフトボールだけじゃなくて、漫画もがんばろうよ」
と、さらに煽られる。
「郡司くん、このサークルの半分しか楽しめてないんじゃん」
煽りに煽る高輪。
対する郡司は、
「そういってもなー。この部屋、漫画本がたくさんありすぎて、どれから読めばいいのかわからんのだ」
と言う。
すかさず高輪は、
「――工夫できないの?
工夫っていうのは、例えば、週刊少年ジャンプだとか、最新の漫画雑誌を読んで、そのなかからお気に入りの連載を見つけて、単行本にもあたっていく」
読む漫画を選ぶにも、工夫がある。高輪は、工夫の仕方を示しているわけだ。
高輪に似合わず、筋が通った意見を言っている……なんて、口に出せるわけもないが。
「ほら、そこの棚にジャンプがあるでしょ」
高輪が指差す先にジャンプがあるのは、事実だった。
とりあえずといった感じで、郡司は棚のジャンプを手に取り、ページをパラパラとめくっていく。
「…ワンピースしか、知らねえや」
「郡司くんはなんなの!?」
「え…なんなの、って、なに…」
「週刊少年ジャンプのことを、もっとわかってあげてよ」
「えぇ……」
戸惑いの郡司に、
「郡司くん。いますぐ、ジャンププラスをインストールして、スマホに」
と……高輪ミナは、容赦ない。