【愛の◯◯】最高の添削係

 

きょうも、わたしの美人な親友は、眩しい。

わたしが掃除してあげた自室のベッドに腰を下ろして、

「いつもありがとう、八重子。とっても助かってる」

と感謝の気持ちを伝える葉山。

「掃除して、疲れたでしょ? 漫画があちこちに散乱してたし」

「――なんてことないよ。だいじょうぶ」

「遠慮しないで八重子。わたしのベッドに寝転んだっていいんだから」

「そこまで消耗してないって」

苦笑のわたし。

葉山は感心したように、

「ものすごい体力ね」

 

『いや…普通だって』と言いかけて、思い直し、

「そうなのかもね」

とあえて言う。

 

「わたしは……からだの弱さが、コンプレックスだったから」

 

こらこら、葉山。

 

「ナイーブになんないの葉山。からだの弱さなんて、あんたの数々の長所で帳消しでしょっ」

「でも……」

 

でも、じゃ、ないっ。

 

「後ろ向き思考は、やめやめ」

 

「うん……」

 

「ねっ?」

 

「八重子……ワガママ、言っていい?」

「なーに。」

「横向きに……なりたいんだけど」

 

あのねー。

 

「そんなの、ワガママのうちに入るわけないじゃん。わたしに断る必要なんてないよ」

「…ごめんなさい。

 あと…ありがとう」

 

× × ×

 

葉山の勉強机を貸してもらっている。

葉山にしか見せたことのない『ノート』を机に出して、読み返しつつ書き足していく。

 

ベッドに絶賛横になり中の葉山が背後から、

「『創作ノート』?」

「そうだよ」

「がんばってるねえ」

「時間、余ってるし」

「余ってるの?」

「大学2年生って、そんなもの」

「そんなものなのね」

「就活も1年先だし」

 

苦笑しつつ、わたしは、

「就活地獄の真っただ中な、戸部くんっていう3年生が、身近にいるけど」

「あー、戸部くん就活生なんだよねー」

「こんど会ったら、顔が青ざめてそう」

「…応援してあげたら? ちょっとは」

「どーかなー」

「…八重子も『黒い』わね」

あははっ。

 

「戸部くんのお宅に出向いて、激励してあげようかしら」

「やけに優しいねえ。彼に対して」

姉ポジションだもの、わたし」

「葉山が、戸部くんの、お姉さん??」

「そ。お姉さんポジション。その立場を最大限利用して、彼にマウントを取るの」

「激励したいんだか、イジめたいんだか……」

「いちいち面白いじゃない、彼は」

「ほどほどにしときなよ」

「あら、八重子だって、大学のサークル仲間として、相当戸部くんをいたぶってるんでしょう?」

「……否定はできない」

 

× × ×

 

わたしは創作ノートに創作のメモを書きつけていく。

 

具体的には、小説だ。

 

どの媒体に向けて出していくかとか、まったく考えてないし、そもそも、書き始めてすらいない。

 

構想ばっかり、こねくり回したって……ねぇ。

 

時間の余裕はあるけれど、前に向かって行かず。

書き始めたら書き始めたで、書きあぐねそうで。

要らない不安も……つきまとってしまっている。

 

こういうとき、持つべきものは友、で。

 

「ねえ、葉山」

「ん、八重子?」

「親友としてお願いするんだけどさ」

「な、なに、」

「案ずるより産むが易し…って言うじゃん?

 こうやって創作ノートを作るのもほどほどにして、そろそろ、作品を書き始めるべきなんじゃないか、とも思うわけよ。

 それでね…」

「…それで??」

「こんど、ここに来るときにさ」

「…来るときに??」

 

「わたしが、書きかけの小説をプリントアウトして持ってきたら……葉山、添削してくれるかな」

 

「八重子の小説を……わたしが……添削」

 

「葉山が適任だよ。ぜったいあんたは『読み上手』だし」

「……」

「遠慮なしにダメ出ししてほしいな。そのほうが、前に進む」

「……」

 

椅子を180度回転させて、ごろ寝の葉山を見る。

 

「編集者になってよ、葉山」

「編集者とか…、大げさな」

「……その気な顔になってきてるよ、あんた」

「……。

 八重子のために、なるのなら」

「やってくれるの?」

「親友の頼みだもの」

「ヤッター!! よろしくっ葉山」

 

葉山は起き上がり、

「どんなダメ出ししても……怒らないでよ。約束」

「その約束は守れるかなあ?」

「ちょ、ちょっと、そんなこと言わないでよ、八重子」

「へへん」

「――もう。」

 

× × ×

 

「わたしも――なにか、書くか」

「葉山も?

 もしかして、ポエムを??」

「……ポエムもいいんだけど」

「ポエムじゃなかったら、なに書くってゆーの」

「……激励のお手紙、とか」

「激励って――もしや」

「そう。戸部くんの就活を激励するお手紙」

 

お手紙ってことは、葉山の直筆…。

 

「う~~む」

「や、八重子、なにそのリアクション」

「手書き、ってことでしょ?」

「そ、そうよ…」

「葉山。あんたって、案外、悪筆じゃん?」

 

し…しつれいなっ

 

「声が震え始めちゃってるぞー」