ファッションセンスに自信はないけれど、外に着て行く服を選んだ。
――もうちょっと時間かけたほうがよかったかな。
ま、いっか。
× × ×
「この時間帯にわたしが邸(いえ)にいることにも慣れた? お兄ちゃん」
「ぬっ……」
「ぬっ……」じゃないよ。
「慣れてないのなら、慣れて」
それと、
「バイトは!?」
「きょうは、休み」
「え、多くない、休み!? そんなに休めるものなの」
「今期は、就活への配慮が」
「なら、ちょっとは就活っぽいことしなよ」
「ぐぬ……」
「ぐぬ……」じゃないよ。ほんとにもう。
ダメ兄。
……そんなダメ兄だったのだが、わたしの出で立ちを凝視したかと思えば、
「どっか行くんか? あすか」
「……なんでわかるの」
「そりゃあわかるさ」
「妙なところが鋭いよね」
「わるかったなぁ」
「うん。ほんとよくない」
「おい」
……ダメだ。
さっさと出るとしよう。
× × ×
平日の某都市公園。こころなしか人が少ない。
時計塔の下で立って待つ。
14時きっかり――定刻通り、待ち人はやって来てくれた。
「おはよう、ミヤジ!」
「…おはよう、って。完全に午後だろ」
「どうでもいいじゃん」
「な」
いきなりだけど……クスクスと、笑えてきてしまった。
「あ、会うなり笑いやがって」
「ゴメンゴメン、ゴメンって」
「僕の私服がそんなにおかしいんか」
「そんなことないよ。わたしだって、ダサダサファッションだし」
「……」
「がっかりした? ミヤジ。わたしが、ダサくって」
「……べつに」
「まあ、いっか。デートとかとは、別次元なんだし」
「まーな……。
ただの『受験終わってお疲れさま会』ってとこなんだしな」
そうなんだよねー。
「だけど。
あすかは、なんで僕ひとりだけを誘ったんだ?」
うお。
「うお」
「そっ、そのリアクションはなんだよ」
「痛いところを突かれましたので」
「…お疲れさま会なのなら、もっと大人数だって、良くなかったんか」
「諸般の事情だよ」
「なんだそれ」
「うるさいぞ☆」
「な…」
「ほら、それぞれのスケジュールの調整とか、難しいじゃん?」
「にしても」
「元来わたし、そんなに友人がワンサカいるほうでもないし」
やにわにミヤジに近寄って、
「感謝してよ、わざわざ、野鳥がたくさん観られそうな場所に誘ったんだから、さ」
「それは……そうだが」
「んー」
「ふ、不満顔するな」
「じゃあさ」
「?」
「わたしが、祝福したなら……ありがとうを、言ってくれる?」
「祝福…」
「そーだよ。祝福だよ。」
10秒間、溜めてから。
「志望校の合格おめでとう。ミヤジ」
「……ありがとう」
「――もう1回、言ってよ」
「え?」
「だから、ありがとう、ってさ」
「……。
ありがとう」
× × ×
丸太で造ったと思われる木造りのベンチ。
わたしの身長ぐらい距離をあけて、ミヤジと座っている。
自販機で購入したペプシコーラをゴクリゴクリ…と飲んでいく。
ミヤジはなんにも持ってない。
「あんたは、なにか飲まないの」
ミヤジに訊いてみる。
「僕は、いいんだ」
「なにゆえ」
「…諸般の事情だ」
「意外とユーモアあるねぇ」
「…そうか」
「――わたし、コーラって好きなんだ。というか、炭酸飲料大好きっ子でね、もともと」
「ふうん」
「だいたい、10回中、ペプシ飲むのが7回で、コカコーラが3回」
「こだわりなんか? それは」
「なのかなあ」
「……」
「……」
× × ×
双眼鏡出して、野鳥、観察しまくると思ってたのに、枯れ木ばっかり眺めてるみたいじゃないの。
肩透かし。
どーしようもないなー、ミヤジも。
……期待に応えてくれないときのお兄ちゃんみたい。
まるで。
「――かくなるうえは。」
「は??」
「立つよ。ミヤジ」
「? 立って、どうするんだよ」
「決まってるじゃん」
もう、わたしは立ち上がって、
「あんたが受かった二流大学の視察に行くんだよ」
「ぬな……!」
「……お兄ちゃんみたいな、リアクション」
「へ??」
「なんでもないよ。
ともかく――ミヤジの大学と、わたしの大学も、近いんだし。
わたしのキャンパスも視察に行けて、一石二鳥だ」
「そう言われても……」
「なに」
「交通費」
「自腹!」
「エエッ」
「当然」
「強引な」
「だって、わたしだもん」
「……めんどくさ」
「なんか言った!?」
「ヒェッ」