【愛の◯◯】郡司くん、まだ電話切るのはダメだよ、わたしともう少し遊ぼ?

 

『おはよう。郡司くん』

『おー。おはよう、高輪』

『シャッキリした声だね。いいね』

『シャッキリした声…?』

『朝が強いんだ、郡司くんは』

『…よくわかったな。すぐにスイッチが入る』

『寝坊とかしなさそうだよね』

『しない』

『高校時代も――遅刻して、授業が始まったあとで教室に駆け込んでくる、なんてこと、いちどもなかったし』

『…よく憶えてるな』

 

『ところであしたは成人の日だよ。成人式だよ、わたしたち』

『ああ、そーだな』

『郡司くん来るでしょ? ぜったいに』

『来るって、成人式に?』

来てよ

『……』

『もしかして、ダルいわけ??』

『……行くことは、行くけど』

『乗り気じゃないんだね』

『成人式って……楽しくは、ないだろ?』

『えーっ、郡司くんの友だちも、来るんでしょ? …ほら、高校時代仲良かった、マツザカくんとか』

『…来るん、だろうな、あいつも』

『連絡取り合ってないわけ!? マツザカくんと』

『最近は、あまり…』

ひどい。薄情

『…高輪の言う通りなのかもしれない』

『持つべきものは友なのに』

 

『高校で、おまえとよくつるんでた、アカサカって女子、いたじゃないか』

『いたねえ』

『きっと、成人式、彼氏連れで来るんだろうな、アカサカ』

『そうかもね』

『……おい』

『?』

『高輪、おまえ……アカサカと、仲違いでもしたんか? なんだその冷淡さは』

『ノーコメント』

『……怖いんですけど』

『怖い?? なんで』

 

× × ×

 

『成人式関連の話は、これぐらいにして』

『…おう』

『『漫研ときどきソフトボールの会』の1年生、すっかり定着してくれて、よかったよねえ』

『そうだな。女子は羽田に大井町、男子は新田にワッキー。4人も定着してくれた』

『新田くんやワッキーが、もうちょっとソフトボールが上手くなったら、言うことないんだけど』

『…高輪、おまえ、ワッキーのことを『脇本くん』じゃなくて『ワッキー』って呼ぶようになったの、いつぐらいからだったっけ』

『どうだっけなー? 自然な流れ、ってやつじゃない?』

『…高校生時代は、男子をあだ名で呼ぶこと、少しもなかったくせに』

『楽しいの』

『楽しい?』

『『ワッキー!』って、声に出すのが。声に出して呼びたいワッキー、だよね』

『…それは言えるかもしれない』

 

『あとは、羽田さんと大井町さんが、もっと仲良しになってくれたら、言うことないんだけどな~』

『まあ…そんなに仲良し、っていうわけじゃないよな、あのふたり』

『わたしは女子だから、郡司くんよりも、あのふたりの関係がどういう関係か、ビミョーなところまで把握してるよ』

『どういう関係なんだよ』

『話すと長くなっちゃうねぇ』

『便利な逃げのことば、使いやがって』

『ほんとに長くなるんだもん! 文字数の都合もあるんだよ!? わかってよ』

『はー、さようでございますか』

『あー、郡司くんムカつく~~』

『女子高生みたいな口ぶりになりやがって』

『なにそれ、さらにムカつくんですけど』

『勝手にムカつきやがれ』

べ~っ

スマホに向かって『あっかんべー』してるんじゃないだろうな…』

 

× × ×

 

『ねーねー、わたし、面白いゲーム、思いついたんだけど』

『は?』

神奈川県の鉄道路線を20言えるまで電話切れませんゲーム

『は!?』

『交互に、神奈川県の鉄道路線を言っていって、20言えるまで、ずっと続けるの』

『……あのなあ。そもそも、神奈川県に、鉄道路線が20もあるんか??』

『郡司くんはほんとうに神奈川県民なの!?』

『……県民だよっ!!』

『あるよ、ぜったいある』

『心もとない……』

鶴見線

『なっ、なんだよっ!! もうゲームは始まってんのかよ』

『始まったよっ!! …ほら、郡司くんの番』

『……。京浜東北線

相鉄いずみ野線

『……マイナー路線を攻めていくってか? 高輪は』

『郡司くんの番なんですけど』

横須賀線……』

『堅実だねー、やっぱり。そういうところ、高校のときから少しも変わってない』

『……高輪の番だぞ』