【愛の◯◯】同い年の女の子だけど寡黙すぎるぐらい寡黙なバイト仲間

 

どうも皆さま、あけましておめでとうございます。

僕、脇本浩平っていいます。

 

えーーっと。

『キミ、だれ??』って、疑問に思っていらっしゃるかたがおられましたら、過去ログを漁っていただけると、幸いでございます……。

 

無責任で、すみません……。

 

× × ×

 

さて。僕は、通っている大学で、『漫研ときどきソフトボールの会』っていう、奇妙奇天烈摩訶不思議な名前のサークルに所属している。

 

サークル名が長ったらしいので、『漫研ソフト』とか、適当に略すのが賢明。

 

――『漫研ソフト』は、学生会館の5階にサークル室が割り当てられている。

きょうは、土曜。

土曜に入ってしまった講義をなんとかやり過ごして、学生会館5階までたどり着き、サークル室のドアを開けた。

そしたら、同じ1年の羽田愛さんひとりだけ。

 

「おはよう羽田さん」

「おはよう、脇本くん。……元気そうね」

 

あれっ。

「元気そうね」って言う、彼女の声……なんだか、弱々しく聴こえるぞ!?

 

とりあえず、「だれかほかに来てなかったの?」と訊く。

「松浦センパイが居たんだけど……飲みものを買いに出ちゃった」と答える彼女。

 

ううむ。……やはり、声が、弱ってる感じがする。

 

「羽田さん。」

「…うん。」

「…不調?」

「わかっちゃった?」

「声で」

「やっぱり、わかっちゃうか。……落ち込んでるの、わたし」

「――きみでも、落ち込むこと、あるの」

「わたしに、弟がいることは、脇本くん、知ってたよね」

「知ってた」

「弟に、怒られたの。きのうの夜」

「怒られた…?」

「詳しくは話せないんだけど、ね……。ヘコヘコに凹んじゃうぐらい、お説教されて。今朝は、ここに持ってくるお弁当も、作ること、できなかった」

「…重症だね」

「『ぼくが言い過ぎだったよ』って、いちおう、弟には、謝られたの」

「…でも、ダメージは、残ってるんだ」

「そうなのよ…」

 

× × ×

 

松浦センパイが戻ってきてからも、羽田さんは精彩を欠いていた。

うつむきがちな様子が目立っていた。

 

× × ×

 

うまく……調子を取り戻してくれたら、いいんだけどなぁ。

 

3連休でリフレッシュして、明るい羽田さんに、戻ってほしい。

 

 

夕方から、アルバイトだった。

バイト先は、古書店

 

連休中だというのに、いつにもまして、客が来ない。

書棚の整理整頓もやり尽くしてしまった。

手持ち無沙汰だ。

 

手持ち無沙汰だが、ありがたいことに、この古書店にはもうひとりバイトがいる。

しかも、学校こそ違えど、同い年の大学生の女の子なのだ!

 

市井光夢(いちい みゆ)さん。

 

さっきまでレジカウンターで物静かに読書していた市井さんが、ちょうど本を読み終えたところだった。

チャンスだ。

話を振って、手持ち無沙汰を抜け出そう。

 

「市井さん。読書、お疲れさま。それにしても、ヒマだね。ヒマが、極まってるよね」

「……」

 

寡黙(かもく)がデフォルトの市井さんは、容易にはことばを返してくれない。

だが、彼女の寡黙さを把握している僕には、想定の範囲内である。

 

「雑談でもしないと、間が持たないというか、なんというか、じゃない? お客さん来る気配もないし」

「……」

 

寡黙をつらぬく彼女。

ダメだ。あきらめるな。こんな段階で、彼女の沈黙ぶりに屈してはいけないんだ…!

 

「そういえば、きみと僕、お互いの家族構成とか、まだ、話してなかったよね」

「……」

 

ネバーギブアップ。

 

「僕はひとりっ子なんだけど、市井さんは、きょうだいは? ……同じサークルの女の子で、弟持ちの子がいるんだけど、弟にお説教食らっちゃったりとか、なかなか一筋縄では行かないみたいなんだよね」

「……」

 

あ、あきらめるものか…!!

 

「もちろん、きょうだいがいることで、幸せを感じることも、いっぱいあるんだろうけど。……どう? 市井さん。弟さんとか、あるいは、お兄さんとか。でなかったら、妹さんかお姉さんがいたりは……」

 

「……ひとりっ子」

 

つ、ついに口を開いてくれた!!!

 

「お、同じだね、ひとりっ子なのなら。な、なんだか、そうだと思っていたんだ、僕。予想が的中した。良かった」

 

「……おめでと」

 

「お…おめでたい、ついでに。ひとりっ子同士の、気苦労でも、どうせなら…」

 

「……脇本くん、」

 

「ん、んんっ、」

 

あなたの背後に、お客さん