図書館で、読書。
大学の文学部キャンパスの図書館。
2限の時間が空いたから、その時間をまるまる使って、読書にいそしんでいるというわけ。
なんだかすごく、大学生らしいことしてるって感じ。
文学部の、大学生らしいことを。
キャンパスの図書館にこもって、読書……。
最高に文学部な(?)気分。
やっぱり、文学部の図書館だから、文学書が充実している。
文学ジャンルの書棚は、目うつりするぐらいの取り揃え。
あれも読みたい、これも読みたい……という気分になるわけ。
幸せね。
4年間で、ここの図書館の本、どれだけ読めるかしら?
× × ×
お昼になったので、図書館を出た。
カフェテリアに直行。
古木紬子(ふるき つむぎこ)ちゃんと合流する。
「こんにちは、愛さん」
「紬子ちゃんこんにちは。政治経済学部も、そろそろ冬休み突入かしら?」
「そうね。ヒマになってきたわ。もともと、あまり忙しくない学部なのだけれど」
「アハハ……」
「愛さん、早くランチを買って来なさいよ。いっしょに、きょうの及川くんの『出来(デキ)』を確かめようじゃないの」
「……その気ね。紬子ちゃん」
……で、及川太陽くんの作ったランチを、紬子ちゃんとともに味わった。
「安定してるわね。さすがプロね、太陽くんは」
そうコメントするわたし。
…であったが、『物申す』的なオーラが、紬子ちゃんから立ちのぼっていて、不穏さを感じてしまう。
辛口コメントが、来る――?
ガバリ! と立ち上がる紬子ちゃん。
「つ、つむぎこちゃん、厨房に突進して行かないでね」
「……マカロニサラダ。」
「マカロニサラダ?」
「なによ、このマカロニサラダっ」
× × ×
「昼休みのいちばん忙しいところを妨害してくんなよ!!」
「あんなヘタレた味のマカロニサラダをお客に出すわけ!? だれだって文句も言いたくなると思わない!?」
……まだ、口論が続いている。
やーれやれ。
ここは、カフェテリアではない。
太陽くんが休みをもらって、3人で、近場の喫茶店へと歩いて行っている道中。
「…こんな道の真ん中でマカロニサラダ罵倒すんなや。コムギコって呼ぶぞ!?」
「あなたの野蛮な大声も、周りの通行人に迷惑よ!!」
あはは……。
ほんとう、飽きないんだから……。
× × ×
「はい、喫茶店に来たんだから、ケンカは終わりにしましょーね?」
「……」
「つ、つむぎこちゃん、そんなにピリピリを持続させないの」
「……」
「あ、甘いもの、頼んであげようか?? おごってあげるわよ、パフェとか」
「あなたがおごる必要はないわ。お金ならいっぱい持ってるから」
「そ…そう」
「…チョコレートパフェをいただこうかしら」
尖った眼つきで、紬子ちゃんは、太陽くんを見ながら、
「及川くんも、チョコパフェはどう? お金なら、出してあげるけれど」
「要らん」
ふんぞり返る太陽くん。
「私がせっかく薦めているのに……!」
「コーヒーでいい。おまえにおごられるなんて、まっぴらだ」
「……わかったわ。金輪際、あなたに施しをすることはないわ」
まーまー。
ふたりとも。
わたしと太陽くんはブレンドコーヒー。
紬子ちゃんはロイヤルミルクティーに、すっごく大きな……チョコパフェ。
「――さて! さっそくだけど、太陽くん、『授業』に入りましょうか」
「おっ、愛さん、気合い入ってんなあ」
左隣の太陽くんに、プリントを渡す。
「きょうは、国語か」
「現代文よ。すべての教科の基本。…これは、評論文ね」
「ひえーっ、ややこしそうだなぁ」
「落ち着いて、読んでいけば、ややこしくないから。接続詞と指示語に注意して、読んでいくのよ」
「接続詞? 指示語?」
「あ~、ごめんなさい。そこからよね、まず」
わたしは、丁寧に説明しながら、文中の接続詞や指示語をマルで囲みつつ、太陽くんといっしょに評論文を読んでいく。
第4段落まで読んだところで……パフェのスプーンをくわえながら、どこか不満げな眼で、わたしと太陽くんの様子を眺めている紬子ちゃんに、気づく。
「…どうしたの紬子ちゃん」
「……いえ。愛さんの教えかたが、とっても上手で、感心していて」
「あ、ありがと」
「この調子だと……私の出る幕は、なさそうね」
「あーっ……。紬子ちゃんも、現代文、教えたかった?」
すると彼女は黙って大量のプリントをかばんから取り出した。
「それ、もしかして、ぜんぶ、現代文の」
「そうよ」
「紬子ちゃん……」
「――どうかしら? 及川くんに圧力を与えられそうな分量でしょう?」
「……どんな指導をするつもりだったの」