【愛の◯◯】流(ながる)さんがきょうは割りと焦(じ)れったい

 

5日後は、わたしの誕生日。

19歳の、誕生日。

――19歳か~っ。

もう、ぜんぜん子どもじゃない……そんな年齢だな~っ。

 

しっかり生きていかねば、と思う。

ゆくゆくは、わたしも、自立するんだから。

 

……大井町さんのことを思う。

ほとんど家族から自立して、ほとんど自活している彼女。

彼女みたいに、強く生きられるかな……わたし? と、自問自答する。

彼女と比べたら、わたしなんて、甘ったれ。

……いや、『甘ったれ』は、自己評価が低すぎかな。

だけど……強いよね、大井町さん。わたしと同い年なのに……どこで差がついてるんだろう?

 

大井町さんは気が強すぎる面もあるんだと思う。

おととい、美術館帰りに、新田くんのことを、人格否定すれすれまで悪く言っていた彼女。

サークルのお部屋で、大井町さんと新田くんが同時に居合わせて、険悪ムードになるんじゃないかと不安。

わたしが歯止めをかけるべきか……。

 

× × ×

 

ダイニングテーブルで、流(ながる)さんと向かい合って、コーヒーを飲んでいる。

 

「流さん」

「ん? なんだい、愛ちゃん」

「――人当たりが強いけど、凛々(りり)しい女の子は、好きですか?」

「え、えっ!?」

「――どうですか? 好きですか」

「人当たり強くて……凛々しい子?」

「たとえば、カレンさんは……どちらかというと、そういうタイプのほうなんじゃないかって、想像するんですけど」

 

カレンさんは、流さんの彼女さんのお名前。

本邦初公開である。

 

「なぜとつぜんに、カレンさんの名前を――」

「身勝手なわたしのイジワルです」

「そ、そうか。……そうだねえ、凛々しい、っていうのは、かなり彼女には当てはまるかもしれないね。だけど、人当たりが強いってわけじゃないよ」

心持ちうつむき気味に、苦笑いで、

「まあ、ぼくに対して、厳しいことばを投げかけることもあるけど」

「……いいですね。叱ってくれる恋人」

「早く、がんばって、カレンさんに追いつかねば……って思うよ」

 

カレンさんは社会人だ。

とうぜん、いまの時間帯、バリバリと働いていることだろう。

 

ふと……気になったことがあって、流さんに訊いてみた。

「流さんは――お仕事、されないんですか?」

 

彼はいっしゅんたじろいで、それからホットコーヒーをぐび、と飲み、

「痛いところを突いてくるのも……きみの一種の才能なのかな」

「え~、そーですか~?」

「――就職は、するよ」

「いつ?」

「来年度から」

「どこで、なにを?」

「それはね……」

穏やかに、彼は、

「まだ、秘密にしておきたい」

「え、どうしてですか」

「たまには、ぼくだって、身勝手になるのさ」

「……??」

「……いつ、教えようかな」

そう言い、微笑みつつ、

「クリスマスまで、秘密にしておこうかな」

「クリスマス……」

「ぼくは、サンタクロースでもなんでもないけど」

「……そんなに秘密にしておきたい職種なんですか? 焦(じ)らす必要があるんですか」

疑わしいわたし。

流さんは、ひたすらの微笑。

 

× × ×

 

わたしはふたりぶんのマグカップを洗い、ふたたび席についた。

眼の前の流さんが訊いてくる。

「きょう、大学は、お休みなの? 愛ちゃん」

「いいえ。午前にコマが入ってないってだけです。午後から行きます」

「そうなんだ」

「お昼ごはん、わたしが作るので。作って、片付けしてからでも、講義に間に合うので」

「それは楽しみだな」

「メインのおかずなんですけど、鶏肉と豚肉、どっちがいいですか?」

「チキン・オア・ポークかい」

「はい。流さんが決めてください。任せます」

「じゃあ――チキンで」

「わかりました。鶏もも肉を使ったおかずを作りましょう」

「アツマも食べるだろ? あいつも、午前中の講義、入ってなかったみたいだし」

「あいにく」

「おいおい」

「彼のおかずだけ、少なめにしちゃいましょーか」

「……いじめなくたって」

「いじめたくなっちゃう日も、あるんです」

「それが、きょうなの?」

「はい――いじめたくなっちゃう日は、気まぐれで決まるんですけど」

「アツマも……災難だな」

「えーっ」

 

ムスーッとした顔を、作ってみる。

もちろん、本気ではない。

 

返事に困っちゃってる流さん。

ごめんなさい……わたしって、ほんと、マジメの反対。

 

× × ×

 

3人で昼食をとった。

 

「や~、いつもながら、美味しかった美味しかった」

「ありがと、アツマくん」

「おれのチキンソテーが、気持ち小さめな感じもしたが」

「……美味しかったんでしょ?」

「お、おお、美味しかったぜ?」

 

「愛ちゃんは、まだ出発まで時間ある?」

「あります、だいぶ。時間つぶさなきゃなー。……コーヒーでも、淹(い)れようかしら」

「いやいや、コーヒーはさっき飲んだでしょ」

「カフェインに強いんですよっ、わたしは」

「それは……わかってるよ。でも、ものすごいコーヒー愛だよね」

「ええ。年がら年中、コーヒーには、愛情を傾けてます」

「……コーヒーもいいんだけどさ」

「? ……流さん?」

「せっかくいま、きみとアツマとぼくの3人で同じ空間にいるんだからさ」

「……はい」

「遊ぼうよ」

「遊ぶ??」

「うん」

「どうやって??」

「――いまから、ぼくが遊びを考える」

「ええっ。即興で遊び、思いつけますか!?」

「だいじょうぶ」

「いったい、どんな……」

「焦らして、ごめんね」

「きょ、きょうの流さん……割りと、ふまじめ」

「愛ちゃんに影響されたのかなー」

そっ、そんなぁ