【愛の◯◯】「来年は牧がたぶん三冠王になってくれるわ」

 

「アツマくん、きょうは短縮版――」

「お、来やがったか」

「――になるかどうかは微妙なんだけど」

「ふぇ、フェイントはやめてくれ」

「地の文なしで行くので、そこのところはよろしくね」

「おれとおまえのセリフだけってことだろ? 手抜きかよ」

「手抜きじゃないよっ! たぶん」

「心もとないなー」

「かっ、管理人さんだって、疲れたりもするのよ……」

「そりゃだれだって疲れるときは疲れるだろ」

「……アツマくん」

「なにかな」

「あなた……元気すぎない!?」

「エーッ、そんなことねーよ」

「わたし……じつは、ちょっと疲労感があって」

「ウソだぁ」

ほんとよ!!

「わかったわかったわかった、わかったから、そんなギューーッってしがみつくなよ」

「感じないの……? わたしが、疲れてるのを。これだけひっついてきてるのに」

「う~~ん」

「ねぇ!!」

「――まあ、どうせ、昼寝でもすりゃ、回復する程度だろ」

 

むぎゅ~~~っ

 

「――なんだおまえ?」

 

むぎゅ~~~っ!!

 

「……髪が逆立ちそうな勢いだな……せっかくきれいな栗色の髪なのに」

 

× × ×

 

「やっぱり短縮版になるかも。わたしのスタミナも切れてきてるし。1400字程度ってところで――」

「あのさ、愛」

「なによ?」

「おまえが疲れを感じてる原因に、心当たりがあるんだが」

「ん~……」

「アレだろ?」

「……『アレだろ?』じゃ、わかんないんですけど」

「だから、アレだよ」

「い、いいかげんにしなさいよ」

「――東京ヤクルトスワローズに、横浜スタジアムで、セ・リーグ優勝を決められた、横浜DeNAベイスターズ

「じぶんの贔屓球団の本拠地で、相手チームに優勝決められた――そりゃ、ダメージでかいわ」

「……」

「引きずるわな」

「……」

「それで、イマイチ冴えない調子なんだろ」

「も、も、もっと、明るくて楽しい話を、しましょうよ!?!?」

「そのテンパりかたは、図星な証拠だな」

「……ポジティブに考えなきゃ、ダメなのよ。わたしは、来年ベイスターズハマスタで日本一になる瞬間を、すでに思い描いていて」

「なんという気の早さ」

牧がたぶん三冠王になってくれるわ

「愛ちゃん……どこまでが本気なん……??」

 

× × ×

 

「……昼寝してこようかしら」

「そのほうがいいかもしれんなぁ」

「――あれ、LINEの通知が来てるじゃないの」

「だれから?」

「管理人さんから」

「……好き放題やってんな、あの管理人も」

「グチグチ言わないの。……なになに、

『10月の振り返りをやってほしいです』

 って書いてある」

「振り返りって。漠然な」

「この邸(いえ)で起こったこととか、思い出せばいいんじゃないのかしら?」

「昼寝はどーすんの」

「後回しよ」

「ふぅん……」

「あなたも振り返りに協力するのよ」

「って言われてもな……10月、なにがあった?」

「あすかちゃんの部活と利比古の部活の合宿とか」

「あーっ、2週続けて合宿があったなあ」

「邸(ウチ)に合宿で泊まりに来た子、みんないい子だったわよね」

「やー、おれは、あんまり合宿の様子は見てなかったかんなー」

「……でも、わかるでしょ? いい子だったってことは!」

「……」

「どうしてなにも言わないの!?」

「……」

「……黙ってると、もっと強いちからで、あなたの足、踏みつけるわよ」

「……んーーっと、」

「そ、そっ、その目線の下がりかた、意味不明なんだけどっ」

「……おまえのスリッパが、」

「!?」

「スリッパが――かわいいな、って。そんだけ」

 

× × ×

 

「お~~い、そろそろスネるのやめてくれたっていいだろ~~」

「フンっ」

「意地でも見ないつもりだな……おれの顔」

「――せんきょ」

「へっ??」

「――選挙!! 投票日

「あー、大事だよな……それ」