【愛の◯◯】真夏のピークはとっくに去って……

 

シナモロールのぬいぐるみに寄り添いながら、ウトウトと浅い眠りに落ちていた。

 

…眼が覚めた。

しまったな。

クーラーでちょうどよく冷やされたお布団が気持ちよくって、つい…。

まだ、午前なのに。

 

まっしろなシナモロールの頭をナデナデしながら、反省。

 

顔でも洗って、気合を入れよう……と思いながら、部屋を出た。

 

そしたら、利比古くんとバッタリ。

 

ずいぶん『よそゆき』な、彼の格好が、眼につく。

 

「……出かけるの、どっか?」

とりあえずわたしは問う。

 

そしたらば、

「ハイ。ごはんを、食べに」

と彼は答える。

 

――こころなしか、照れくさそうに、

彼は、答えた。

 

「その様子だと――、

『だれかと』、ごはんを食べるんだね」

 

「さすがあすかさんですね。ご名答」

 

……。

 

「はあ」

「え、その反応は、なんですか」

「ご名答、じゃないよっ、利比古くん」

「えーっ」

「えーっ、じゃないよっ!」

 

利比古くんのハンサム顔をぎょろり、と見て、

 

「――ほのかちゃんと、でしょ?」

 

「ご、ご名答っ…」

 

「そっか、そっかぁ~」

「あすかさん…?」

「やっぱり、スミにおけないや。利比古くんも」

 

それからわたしは、

「ごはんだけじゃ、ないでしょ。ごはんのあとで、どっかに行くんでしょ」

 

「……はい。本屋さんめぐりを、する予定で」

「まー、そんなところだよねー」

 

わざと、ニヤけた表情を作りつつ、

「いってらっしゃい。頑張ってきなよ」

と激励。

 

「いってきます……」と彼は応答。

いくぶん、わたしの勢いに押され気味に。

 

 

 

――うまく、ニヤけられてたかな? わたし。

 

× × ×

 

それにしても。

 

この前の夏祭り、利比古くんとほのかちゃんをハメて、

わざとふたりきり状態にした、『主犯格』は、

他ならぬ、わたしなわけなんだけど、

 

――トントン拍子だな。

 

 

さっきの会話の中で、『デート』という単語は、いちども出なかった。

だけど、出なかったからこそ、

『デート』する、という事実が、

強く、浮き彫りになる。

 

――そっかぁ。

 

利比古くんとほのかちゃんが、そういう仲に……ねぇ。

 

おねーさんに、報告すべき?

いや、おねーさんなら、自然に気づいちゃうか。

 

わたしの出る幕ないな。

すこっしも、ない。

 

 

 

……おめでたいこと、なんだよね?? これって。

 

 

 

× × ×

 

顔を洗って、部屋に戻った。

 

利比古くんはとっくに出かけた。

 

 

…本棚から、文庫本を取った。

 

なにか読みたい気分だった。

本の世界に、没入したい気分だった……。

 

教養を育(はぐく)むために自腹で買った、

フランツ・カフカの小説。

 

勉強机にきちんと座り、カフカをわたしは読んでいった。

でも、少しも、少しも、カフカの世界に、没入できない。

カフカの世界とわたしのコンディションが、うまく噛み合わないのか。

 

「…そもそもカフカで気晴らししようなんて思ったのが、間違いだったのかな」

 

独(ひと)りごちる。

 

「…はーぁ」

 

ヘンなため息、ついちゃった。

どうやら、

読書って調子じゃ――ないみたい。

 

 

「文学がだめなら、ロックだ、ロック」

また不要な独(ひと)りごと言って、スマホをスタンドに立てる。

 

例によって、90年代&00年代邦楽ロックのプレイリストを再生開始。

ベッドに腰かけ、楽曲に耳を委(ゆだ)ねる。

 

このブログを昔から読まれている方々は、ご存知かもだけど――、

時代遅れの90年代&00年代邦楽ロックほど、わたしの耳には心地よくて。

リアルタイムで聴かなかった曲ばっかだから、後追いといえば後追い。

だけどそんな、後追いでたどり着いた楽曲ほど、不思議と耳にしっくりくる。

 

もっとも、わたしの趣味を延々と語るタイミングでは、ない。

 

初期のくるりの曲を聴く。

初期のサニーデイ・サービスの曲を聴く。

 

……なんでだろう、

初期のくるり、初期のサニーデイ・サービスが、

いつもの5割増しぐらいで……感傷的に、耳に響く。

 

響いてしまう。

 

せつなくて、さみしい音の響きを、

肌に敏感に感じてしまって――。

 

聴き続けるのが、ちょっとだけ、つらくなる。

 

なんで?

 

どこから、出てきてるっていうの、

わたしの寂寥感(せきりょうかん)。

 

 

…勉強机に歩み寄り、スマホを操作して、プレイリストを一時停止。

 

ベッドにまた座って、大きく息を吐く。

 

やけっぱちみたいに、

モーモールルギャバンの『サイケな恋人』の歌詞を…口ずさむ。

 

この楽曲も、最近なようで、そうとう昔からある曲。

 

だからどうした、って、感じだけど……。

 

 

モヤモヤを晴らすためみたいに、『サイケな恋人』を口ずさみ続ける。

だけど、モヤモヤが、しぶとくって、バカらしくなり、口ずさむのをやめる。

 

 

この、空回りみたいな感情は……なに?

 

 

……答えが出ないまま、

『もうすぐ秋になってしまう』ということを、ことし初めて……自覚する。