はい! 皆さまこんにちは。
アカ子です!!
――もしかして、『おはようございます』のほうが良かったですか?
――まあ、いいでしょう。
きょうは珍しくわたし、土曜日の『当番』で『登板』してるわけなんですが、
以前、日曜日に登場する頻度が高すぎるのではないか…と自虐的になって、
わたしって、いわば『サンデーアカ子』だよね、とか自嘲気味に言ってた憶えがあるんですけれども、
きょうは、日曜日ではなく、紛れもない土曜日、
なので、サンデーアカ子ならぬ、『サタデーアカ子』なわけです。
……それがどうした、って話ですよね。
ごめんなさい。
では、本編……。
× × ×
きょうは、土曜日。
模型屋さんのアルバイトまで時間があったから、商店街でお買いものをすることにした。
まず、向かったのは、古本屋さん。
自動ドアが開き、店内に入る。
ところ狭しと敷き詰められ、積み上げられた古書――。
これが古本屋さんなのよね。
本を踏んづけたりしないように、静かに店内を移動し、棚を物色する。
とある詩集に、眼がとまる。
この詩人――邦訳が出てたんだ。
掘り出し物で、間違いがない。
古書店でないと――まず、置いてないものね。
すぐに、その詩集に手を伸ばす。
お値段は確認しないし、気にしない。
お財布にいっぱい野口博士を入れてきたので――。
『お嬢さまなのに、諭吉先生じゃなくて、野口博士を大量にお財布に詰め込んでるなんて、ずいぶんセコいんだな』
というツッコミが、どこからともなく聞こえてきそうだけど……、
そこは、お嬢さまらしい余裕で、スルー。
掘り出し物詩集のほかにも、小説やら戯曲やら評論やら、文学系統の本を買い漁る。
根っからの文学好きなわたしなので。
ついつい、あれもこれも――と、手を伸ばしてしまう。
洋書も、かなり充実している。
横文字の背表紙を見て、『これ読んでみたい』、とインスピレーションがわき上がるやいなや、手もとにキープしている。
…買い物かごが必要なくらい、本を購入してしまった。
野口博士が湯水のごとく消えていく。
× × ×
次は、レコード店。
レコード店なので、レコードを買う。
CDの時代は過ぎようとしていて、デジタルな配信サービスが花ざかりだけれど、
そういう時代だからこそ、アナログ盤に原点回帰したい。
わたしはレコードのアナログな音が好きなのだ。
クラシックもジャズもいっぱいの品揃え。
泣いて喜びたいぐらい、わたしの好みをくすぐってくる。
ほんとうに泣くわけではないけど。
でも、家に帰って音源を聴き始めたら、感極まってしまうかもしれない。
そんなくらい、わたしの好みをくすぐってくるラインナップのレコード店が――この商店街にはあるのだ。
「ハンク・モブレーのこの音源……貴重」
思わずジャケットを見て、つぶやいてしまう。
そのつぶやきが耳に入ったのか、お年を召したご主人が、眼を細めて微笑む。
祖父と孫ほど年の離れたふたりが、通じ合う瞬間である。
× × ×
買った古本とレコードを両手で運び、バイト先の模型屋さんに向かう。
きょうはミニ四駆大会の日ではないので、タ◯ヤ模型さんTシャツはもちろん着用していない。
レジカウンターに座っていると、
「高そうな洋服着てんな、アカ子ねーちゃん」
……と、いきなりやってきた『マーくん』というニックネームの男の子が、眼を見張りつつ言ってくる。
「悪いかしら? 高い洋服を着ていたら」
わたしが反撃すると、
「……」
とマーくんは、凹(へこ)み気味に、無言になる。
凹ませるつもりは、なかったんだけれど……。
右手で頬杖をつきながら、
あたたかく、やわらかな笑い顔をつくって、
マーくんにじーっと向き合ってみる。
笑顔で、立ち直らせるというわけ。
「――そんなにニコニコすんなよっ」
わたしの笑顔を受け止めて、バツが悪そうにしながらも、頬をじんわりと染めながらも……マーくんは、反発する元気を取り戻していく。
× × ×
「きょうのアカ子ねーちゃんは、やけにじょーきげんそうだな」
「掘り出し物を、たくさん買えたからよ」
「ほりだしもの??」
「わたしの後ろに、買い物袋が置いてあるでしょ?」
「――あっ、マジだ」
「本とレコードを買ったのよ」
「買い物袋――ずいぶん、ふくれてんな」
「たくさん買ったんだもの」
「ブルジョアなんだな」
「マーくん……小学生よね? あなた。そんなことばを、どこで……」
「なめんなよ~、小学生を」
「本を買いまくっても、ぜんぶ読みきれるんか?」
「そっちこそ、ずいぶんわたしをナメるのね」
「ぐっ」
「わたしの読書エネルギーを甘く見ないでよ」
「どっ、読書エネルギーとか……意味わからん」
「……ねえ」
「……なに?」
「マーくんは、本、読む?」
「本は…ぜんぜん」
「やっぱりね」
「やっぱりってなんだよ」
「ふぅ……」
「なに、そのため息」
「あなたぐらいの歳のころ……小学校の図書館の本を、片っ端から読んでいたものだわ」
「ジマンか?」
「そうね」
「お、おいおい」
「わたしがいちばん言いたいことはね、
本は……読んでおいて、損はないものよ、マーくん」
「……せっきょーじみてきた」
「そうね」
「……」
「どんな本だっていいのよ。子どものころ、読んだ本が――5年後10年後になって、じぶんを助けてくれるかもしれない」
「……アカ子ねーちゃんの『たいけんだん』か? それ」
「――そうとも、言うけれど」
「ふうん……」
「マーくん、」
「?」
「読書感想文。読書感想文の宿題が、出たりしているんじゃないの」
「うわっ!! すっかり忘れてた、読書感想文」
「けっきょく書けずじまいで夏休みが終わって、先生に怒られるけど、うやむやになるってパターンね」
「もしかして…もしかして、教えてくれたりすんの!? 読書感想文の書きかた」
「……ふふっ」
「お、教えてくれたら、うれしーなあ」
「……教えてあげる、書きかた。特別によ。喜びなさい?」
「や、やったああぁ!!」
「ただし」
「えっ」
「マーくんが、いい子にしていたら――という、条件付き」
「い、い、いい子に、って……たとえば……???」
「『ブルジョア』なんてことばは、使わないこと」
「……よっぽど、イヤなんだな」