サークル部屋のソファで、眼をつむって寝ているふりをして、クボと碧衣(あおい)の会話に聞き耳を立てている。
週刊少年マガジンの話をしているらしい。
「次号でいよいよ、『ランウェイで笑って』も最終回だな」
とクボが言う。
そうそう、そうなんだよ、
『ランウェイで笑って』、ついに次週で終わっちゃうんだよねー。
「どんな終わりかたするか、気になるね」
クボに対して碧衣が言う。
「最終巻が発売されたら、最初から通しで読み直してみたいな」
「あら奇遇ね久保山くん。わたしも同じこと考えてた」
「なんと。気が合うな、有楽(うらく)」
「気が合うね、久保山くん」
……。
なーんか、
きょうのクボと碧衣、息ピッタリ、って感じ。
「――にしても巻頭カラーで終わるのか」
「そう告知されてたね」
「マガジンで、最終回巻頭カラーって、珍しいっけ?」
「ちょっと、『珍しいっけ?』って。わたしにそれ振ってどーするのよ」
「ん……。
有楽は、『マガジンで最終回巻頭カラーを飾った作品』とか、あんま、興味ない??」
「……そりゃ、最終回巻頭カラーは特別だと思うし、それに相応しい作品も限られるんだろうけど」
「ジャンプだと、よっぽどのことがないかぎり、最終回で巻頭カラーにはならんよな。
マガジンのほうが、最終回巻頭カラーの『ハードル』は、低いのかどうか……」
「だからー、わかんないってばー。過去の記憶を探ってみてよ、久保山くん」
「ううむっ……。
おれ――、そういうことに、無頓着(むとんじゃく)でさ」
「!? だったらなんで最終回巻頭カラーがどうとか言いだしたの」
「や、単純に過去の雑誌をあんま憶えてないんだ。…ジャンプにしたって、『こち亀』の最終回が巻頭カラーだったかどうかも曖昧で」
「――ほんとに、無頓着なのね」
「だれかから聞いたのは――マガジンだと、『金田一少年の事件簿』の最終回は、巻頭カラーだった、ってこと」
「それ、いつの大昔よ」
「……久保山くんは、ジャンプよりマガジンを、『楽しんでる』気がする」
「まあね。サンデーよりは全然マガジンだし、たぶん、ジャンプよりも…マガジン」
「チャンピオンは――」
「あの雑誌は比較対象じゃないだろ」
「たしかに。言えてる言えてる」
「きょうの有楽は…よく笑うな」
「そうかな? 面白い話をしてるからじゃない??」
クボの言うように、碧衣の声は、弾んでいる。
クボと話してるのが面白いんだ。
…碧衣、あんた、クボと、相性いいんだね。
わたしだったら、つい、クボを突っぱねるようにしちゃう…。
――あれっ。
わたし、なにを……。
「ラブコメ漫画の比率が高いから、マガジンを愛読してるんでしょう」
「……それもあるか」
「ラブコメ漫画が充実してる雑誌ほど、久保山くんのお気に入りな気がするもん」
「……そんな認識なのか?」
「いまさらぁ~~?」
「――有楽は、おれの嗜好(しこう)に詳しいんだな」
「ふふん♫」
なにが――「ふふん♫」よっ、碧衣!
――エッ。
わ、わたし、
こころのなかで、碧衣に……こんなツッコミしてるってことは、
ことは、
……ヤキモチ!?
碧衣に、ヤキモチ!?
クボと仲睦まじい、碧衣に、ヤキモチ!?
……そんなのないよ。
それって、
碧衣にヤキモチ焼いてるって、
それ、つまり、
まるで、クボを横取りされるのが、されるのが、わたしは……。
…ううん、違う!
ぜったいに、そんな感情、おかしい!!
「――なんなの、真備(まきび)。起き上がったと思ったら、ブンブンブンブン頭を振り回して」
気づかれたぁ……。
碧衣に気づかれたぁ……。
「こ、これは、これはね。寝起きの儀式だよ、碧衣」
「はあ?」
「準備運動、みたいなもの。こうやって首振らないと、アタマのスイッチ入んないの」
すかさず――クボが、
「犬か猫かよ」
とダイレクトにツッコんでくる…。
「ど、どうせ、わたしは愛玩動物だよっ」
「なに言ってんだ真備。きょうのおまえ、大丈夫か?」
クボ……そんな眼で、見つめてこないで。
「な~んか、おかしいぞ。
…思春期かあ?? いまさら」
「ばか、そんなんじゃない」
「反発する声のトーンも…低い」
「……」
「血圧低いんか、真備」
「……」
「あ、そういや、おれの地元――鳥取県は、大雨がたいへんだったみたいだが、
真備の地元はどうだった?
倉敷。」
「……どうでもいいよ」
「や、そりゃウソだろ。実家のことがどうでもいいわけなかろうに」
「……反抗期だから」
「たとえ反抗期が終わってないにしてもさー。気がかりにはなるだろ? ぜったい。全国ニュースでも、あれだけ――」
「反抗期って、言ったけど。」
「ん?? 真備??」
「反抗期の、反抗の対象……あんただったよ、クボ」
「……いまいち、わからんな」
「いまいち、わからんな」じゃ、ないっ!!
とぼけた顔するなっ、クボ!!
せめて、せめて――。
わたしのヤキモチは、わかってよ……。
少しでいいから、わかって、クボ……!
わたしだって、わたしだって、クボと漫画の話、もっとやりたいっ!!
――碧衣に独り占め、されたくない。
されたく、ないんだ。