児童文学サークル『虹北学園(こうほくがくえん)』との交流パーティーの模様を、星崎に話している。
「楽しかったぞ。あっちは、いい人ばっかりだった」
「……本当??」
訝(いぶか)しむ星崎。
「星崎、おまえはもっと人を信じろ」
「なにを言うの、戸部くん」
「――ま、話せばわかる、ってやつだな。おれはあっちのサークルと、すぐに打ち解けられたよ。
見事に、『MINT JAMS』と『虹北学園』、友好関係、成立だ」
「……奇妙なくらい、トントン拍子ね」
「まだ疑うか。疑心暗鬼だと、生きるのがつらくなるぞ?」
「そんなニヤけながら言わないでよっ……」
『MINT JAMS』サークル部屋には、星崎だけでなく、茶々乃さんも来ていた。
おれはこんどは茶々乃さんに話を振って、
「楽しかったよね? 茶々乃さん」
茶々乃さんは、明朗快活に、
「ハイ! 有意義でした」
「だよな~」
「『虹北学園』の人たちにとっては、アツマさんが話す音楽の話が、とっても新鮮みたいでした」
「おれたちも、ふだんあまり関わりのない児童文学の話が聴けて、新鮮だったよ」
「…異なる分野のサークル同士が交流することで、化学反応が生まれたんですね!」
「ズバリだ。そういうことだ。いいこと言うね~、茶々乃さん。どこのだれかさんと大違いで」
険しい表情の星崎が、
「『どこのだれかさん』って、どうせ、わたしのことでしょ……」
せっかくの可愛らしい髪のリボンまで、ワナワナと震えている、星崎。
「ぱ、パンチしちゃうんだからね、戸部くん、それ以上言ったら」
いつもどおりの、おっかなさ、である。
見かねた茶々乃さんが、
「落ち着こうよ、姫ちゃん」
「……落ち着けないときだって……」
「姫ちゃん――もしかして、カルシウム不足?」
「えっ――なにそれ茶々乃ちゃん」
「牛乳飲んで、海藻食べるといいよ」
反応に困っている星崎。
ざまーみろ。
× × ×
「――で、2次会、ってことで、おれと八木は、『虹北学園』のハタチ以上の皆さんと、飲みに行ったんだ」
びっくりして眼を見開いた星崎が、
「ノンアルって言ってなかった!?」
「交流パーティーは、ノンアルだった」
「2次会も交流パーティーに含まれるんじゃないの!?」
「それは、どうかな……」
「話が違うよ」
「お? 『2次会で酒が飲めるんなら、わたしも参加しとくんだった』って顔になってるな、星崎」
「なってないよっ!」
どこからともなく取り出した大学ノートをおれ目がけ投げつける星崎。
「おー、こわ」
よりいっそうワナワナワナワナと震動している、星崎の髪のリボン……。
「……姫ちゃんのリボンが、震えちゃってる」
茶々乃さんのすかさずの指摘に、思わず吹き出しそうになってしまうおれ。
とくに、『姫ちゃんのリボン』という部分が、ツボにはまってしまった。
「な、なっ、なにがおかしいわけ戸部くん!? 意味わかんないよ」
「…わかんなくていいよ、星崎。」
警戒するような顔で、星崎は――、
「あ、あのさっ、」
「どうしたか」
「戸部くんに――ひとつ、質問していい?」
「なにを」
「もしかして、もしかして、さ、」
「ん?」
「その、2次会の、飲みのメンツって――戸部くん以外、みんな女子だったんじゃないの??」
「――よくわかったな。」
「ハーレム状態じゃん」
「人聞き悪い。そんなこと言ったら、こっちだって怒っちゃうぞ」
「じゃあ、言いかたを変える」
「どんなふうに」
「戸部くん、ギャルゲーの主人公状態だったんだよね」
「……なってるか? 言いかたを変えたことに」
「はぁ……」と肩を落としつつ、大げさなため息をついて星崎は、
「戸部くんの『そーゆーところ』は、すごいと思うよ」
「『そーゆーところ』って、どーゆーところだよ」
「……女子に囲まれて、お酒を飲んでいても、動じない」
「ああ。あいにく、テンパることなく、振る舞っていたぞ」
「……自画自賛?」
「八木にあとで訊いてみろよ。『戸部くん2次会で男子ひとりだけでも、いつもと変わることなく落ち着いていた』って言うと思うぞ」
「……真相は、あとで、八木さんに確かめてみるとして」
若干うつむきがちに、おれを見据え、
「どうして――戸部くんは、周りが女の子だらけでも、平気なの??」
「なんじゃいな、その疑問は」
「現在(いま)だってさ、こうやって、わたしと茶々乃ちゃんの女子ふたりに、『挟み撃ち』されてる状態なわけじゃん」
茶々乃さんは『挟み撃ち』なんかしてねぇだろ…と思いつつも、
「ま、男女比1:2は、慣れっこだしな」
「……男女比1:10みたいな状況でも、慣れっこみたいだよね」
「否定はしない」
「……どういうことなのよ、いったい」
「女子の知り合いが、もともと多いからじゃね?」
…星崎は、無言で1分間ぐらい物思いしていたかと思うと、
「……そっか」
「なんだよ」
「愛ちゃんと妹さんで、慣れてるんだ」
「なにに?」
「決まってる、女の子とふれ合うことに、よ」
「……たしかにそれは、いえるかもしれんな」
「かもしれない、じゃないっ。妹さんに加え、愛ちゃんとも、ひとつ屋根の下で――ねぇ戸部くん、あなた、愛ちゃんとの共同生活、何年目よ?」
「もうすぐ、丸5年」
「そんなに、愛ちゃんと、愛をはぐくんで――」
「星崎、そういう物言いは、自重だ、自重」
「あの」
たいへん興味深そうなお顔で、茶々乃さんが、
「あの、『愛ちゃん』、って――??」
あれっ。
愛のこと、茶々乃さんには、話してなかったっけ。
瞬時に星崎が、
「『愛ちゃん』は、戸部くんの、カノジョ」
「カノジョさんなんですか!? アツマさん」
「…肯定せざるを得ない」
「け、けど、『共同生活』って、いったい――」
「…不審がるのも無理ないよな、茶々乃さん」
「どんな、複雑な事情が――」
「複雑なんで、説明が長くなる。そんでもいいなら、説明するが」
「長くなってもいいです。聴かせてくださいアツマさん」
「お」
「わたし、じぶんで言うのもなんだけど、我慢強いんです。いくら長話になっても、大丈夫ですから!」
「お」
――頼もしい子だ、茶々乃さんは。
星崎も100回見習いやがれ、って感じだな。