【愛の◯◯】彼女と彼女の相似点――たとえば、『強引さ』とか。

 

学校まで出向いて、KHKの企画会議。

ラジオ番組を作るんである。

――そろそろ、番組内容を、固めたいな。

 

「黒柳くん、あれから企画はなにか、考えてきた?」

「ごめん……この前、ぼくの案が、板東さんに見向きもされなかったから、自信なくしちゃって」

板東さんはカツ、カツ、と靴で床を鳴らして、

「……1回であきらめるわけ?」

と厳しく言う。

「意気地なしっ」

「ひ、ひどいよ、そこまで言うなんて」

「そうですよ。黒柳さんに、ちょっと厳しすぎますよ」

黒柳さんとぼく――男子2人の反発に、

板東さんは、軽く舌打ちする。

先代会長の麻井先輩のコワさを――受け継いでいるような。

板東さんには、恐怖政治を敷いてもらいたくは、ないんだけど……。

 

黒柳さんが、

「……せめて、こっち向いてよ、板東さん」

と呼びかける。

意を決した顔になりつつある黒柳さん。

彼にも思うところ、あるのだろう。

やられっぱなしじゃ、だれだってイヤですよね。

 

けれども、ツンとすました顔で、依然として板東さんはそっぽを向いている。

強情。

黒柳さんは、重ねて呼びかける。

「遠慮なく、『意気地なし』って言ってもいいから。だから、ぼくの顔を見てくれないかな」

「……」

「思ってること、言っちゃうけど。

 きみは、ぼくに対してばっかり、アイディアを要求するけど――、

 肝心の、きみの考えは、どうなの?

 ぼくや羽田くんにアイディアを求めるのなら、きみ自身からも案を発する義務があると思うんだよ。

 要求される代わりに――ぼくらにも、要求する権利があると思う」

「……」

「ねっ、板東さん」

 

強情なKHK新会長は、さらに視線をそらして、

 

「わたしは……ラジオは、『ランチタイムメガミックス(仮)』で手一杯だし」

「そうやって逃げるのはよくないよ」

「わたし逃げてなんかない、黒柳くん」

「『ランチタイムメガミックス(仮)』と、こんどの新作ラジオ番組は、性質が違うでしょ?」

「だから……なに」

「もっと、自分から、積極的にこの企画に関わってほしい」

「積極的って。黒柳くんだって、弱腰じゃない」

「きみだって自分の案を出そうとしないじゃないか。

 弱腰、とか、言わないけど……きみのことを」

 

うつむく板東さん。

まずい空気。

 

ここはひとつ、ぼくが――。

 

「お取り込み中すみませんが」

カバンから、素早くプリントを取り出し、

「実は、具体的な企画案を、考えてきたんです――ぼく」

「……どんな?」

虚(うつ)ろな声で板東さんが訊く。

「リクエスト番組を、やるのはどうでしょう?

 思い出の1曲、的な番組を。

『宝物のメロディー』って、仮題をつけたんですけど、

 生徒だけでなく、先生方とか、食堂のオバさんとか――桐原に関わるいろいろな人たちに、『思い出のこの1曲』を募(つの)って。

 リクエストした人のエピソードを添えて、曲を流すんです。

 ――ありきたりな、コンセプトだとは、自分でも感じてますけど」

 

板東さんは、しばし思案して、

それから、視線をぼくに据えて、

 

「――パーソナリティは?」

「もちろん、板東さんです」

 

…つぶやくように彼女は、

「『宝物のメロディー』、か…」

「仮タイトルも、ありきたりですけど」

「…ありきたりだけど、悪くないネーミングだと思う」

「ほんとですか」

「羽田くんのネーミングセンスも成長したね」

「ど、どうも…」

 

ぼくのネーミングセンスをほめてくれた板東さんは、プリントを読みながら、

「これ――肉付け、できるよね、もっと」

「内容をもっと充実させられる、ってことでしょうか」

「そーゆうこと」

なぜか、ぼくの案が書かれたプリントを、胸に抱きしめながら、

「来週も、春休みはあるから……肉付け、していこうよ」

と彼女は提案する。

ぼくは訊く。

「企画自体は……採用、ってことでいいんですか」

「うん、採用」

そう言ったかと思うと、どこからともなく赤ペンを取り出し、プリントに『花マル』をつける彼女。

「花マルを3つぐらいつけられるような番組にするために――これから、がんばっていこうよ」

ぼくはうなずく。

板東さんも、明るい顔で、うなずいて、

「黒柳くんもだよ?」

「――わかってる。」

「勝負だね」

「勝負…?」

「どっちがより大きく、この番組作りに貢献したかの、勝負」

「…勝敗はどうやって判定するの」

「勝敗を決めるのが目的じゃないの」

「勝負…なんでしょ!?」

「意気込み、的なものだよ」

「釈然としないよ…」

「――、

 とにかく、がんばってよ。わたしを屈服させるぐらい、がんばってよ」

 

 

× × ×

 

「板東さんが、KHKの新会長なんですけど」

「去年、邸(うち)に合宿に来てた、女の子だよね?」

「そうです。あすかさんと同学年です」

「で――板東さんが、なにか?」

「彼女が……なんだかどんどん、あすかさんに似てきてるなあ、ときょう思ってしまって」

 

ぼくの発言に、あすかさんは眼を大きく見開いて、

 

「――似てきてるって、なに!? どういうこと!?」

「いや、ぼくの印象にすぎませんが……」

「どういう点でわたしに似てると思ったわけ!?」

「……『勢い』」

「――あるんでしょ、もっと、『勢い』のほかにも」

「ん……」

「口ごもらないでよ。利比古くんの、悪いクセ」

 

だって、『強引さ』が似てる、なんて言ったら、

あすかさんを、激怒させてしまうかもしれないから。

 

「板東さんって子に興味出てきた」

「……連絡先とか、知ってなかったんですか?」

「わたしのスマホの電話帳には、入ってない」

「てっきり、合宿のときに、交換したものと――」

「それは利比古くんの早とちりだよ」

 

あすかさんの、いまの表情が、

女子の人間関係の難しさを――物語ってるような気がする。

 

「どうしたら、板東さんと、会えるかな?」

「会ってどうするんですか」

……俄然(がぜん)、板東さんに興味が出てきた

「ぼくの質問に答えてください」

どんな子なのかな~

 

あのー、あすかさん、

ケンカ売るような口調になってませんか?

ぼくに対して、でなく、

板東さんに対して……。

 

平和じゃないなあ……。