中村創介(なかむら そうすけ)先輩。
スポーツ新聞部の、桜子さんのひとつ前の部長である。
わたしが1年のときに、お世話になった。
破天荒というか、型破りというか……そんな紙面を、作っていたお人(ひと)。
あの時代が……懐かしい。
現在中村さんは福岡県で大学生活を送っている。
せっかくの、春休みということで、きょうはわたしと彼でビデオ通話をすることになった。
PC画面に中村さんが映る。
高校時代と、さほど変わりないお姿。
× × ×
『――2年生になるのを機に、自分でサークルを立ち上げようと思うんだ』
「うわあ、すごいじゃないですか!」
『壁新聞サークル。あることないこと書いて、キャンパスの壁に貼り付けるんだ』
「アヴァンギャルドですね……でも、そんなことして当局から怒られないんですか」
『ウチの当局は穏当だし。それに、自由に掲示物を貼ってもいい、ってスペースがあるんだから』
「そこに、壁新聞を貼るんですね」
『そゆことっ!』
「――尊敬します、中村さんの行動力」
『て、照れちゃうね』
中村さんが、照れるついでに――、
「マオさんとは――毎日、電話してるんですか? ちゃんと」
『いっ、いきなりマオが出てきた』
「ちゃんと、してますか??」
『イジワルな眼だね……あすかさん』
「わたしだって、気になってます!」
『……あいつ、きのうなんか、2回もかけてきたよ』
「うわあ~、ステキ」
『ステキ……かねぇ??』
「うらやましいです。そして、あこがれます」
『おれと、マオに??』
「ロンリーガールですから……わたしは」
『ロンリーガール、って』
「ロンリーで、フリーで」
『……』
「『そういうの』に、縁がない人間なのかな、って自問自答したり」
『……彼氏、ほしいの?』
やけっぱち気味にわたしは笑って、
「――それはそうと、ことし卒業組の複雑な人間関係にも、ひとまずの決着がついて」
『ああ、桜子と岡崎と瀬戸ね』
「3人だけじゃなくて、スポーツ新聞部外部の人まで巻き込んでましたけどね」
『――どうなったの?』
「話すとすんごく長くなっちゃうんですけど」
『聴くよ、おれ』
「ですよね――聴きたいですよね」
× × ×
『おっもしろいなぁ~~っ、そりゃ、ラブコメ漫画にできそうだよ』
「ちゃんと伏線を回収したラブコメ漫画みたいですよね」
『桜子と岡崎、瀬戸と神岡さんかあ』
「めでたく、おさまった感じです」
中村さんは、うなずきながら、
『面白い、面白い』と笑う。
「……色恋ばなしも、いいんですけど、」
『うん?』
「ちょっとは、真面目なことも……というか、中村さんに、貴重なアドバイスをいただきたくて」
『なんの、アドバイス?』
「今後の――スポーツ新聞部についての」
『ああ、将来像、みたいなことね』
「一時的に、部員が2人しかいない状態なので、なんとかして新入生を引き込まなきゃ、と思ってるんです。でないと、新聞制作が立ち行かなくなっちゃう」
『そこが、不安?』
「中村さん……わたしは、スポーツ新聞部をどうしていけばいいんでしょうか。
どうするべき、なんでしょうか……」
『フム』
「どういうスポーツ新聞部を、中村さんは望んでますか?」
『そこは……、
あすかさんが、望むようにすればいいよ』
焦り気味になってわたしは、
「そ、その答えが、いちばん困っちゃいますよ」
しかし中村さんは穏やかさに満ちた表情で、
『なんとかなるって。新入部員も、自然に集まってくる』
「どうして、そこまで、確信できるんですか」
『あすかさん。
きみは、きみが『銀メダリスト』であることを、忘れてないか?』
「作文オリンピック……」
『歴代の部員のなかでも、きみが、カリスマ性はダントツで1番だ』
「カリスマ!?」
『きみのお兄さんに勝るとも劣らない、カリスマな実績が、あるじゃないの』
「そう……ですかね?」
『だから、心配ないよ。必ず、よりよい方向に、スポーツ新聞部を導いていける』
そうだろうか……。
『期待してるよ。もっとも、期待し過ぎちゃうと、きみの重荷になっちゃうから――だから、遠い福岡の地で、陰ながら、ほどほどに、期待しておく』
「――ありがとうございます」
『あすかさん』
「はい。」
『肩の力、抜いて!』
「中村さん――」
『基本的に、こっちはヒマだから――うまくいかないことがあったら、いつでも相談に乗ってあげる』
優しい……。
破天荒だけど、
型破りだけど、
それでいて……頼りになる。
『ま、ホットライン、ってやつだろうか』
「……わたし、1年生のときの部長が、中村さんで、ほんとうに良かったです」
『おおーっ』
「がんばれる気が、してきました」
『やったぜ』
「『繋がり』が、あるんですよね、わたしたちには……。
『繋がり』があるって、幸せなことですよね」
『そうだよ。ロンリーガールじゃないよ、きみは』
「……その『ロンリー』は、まったく別の意味で『ロンリー』ですっ」
× × ×
「利比古くん、」
「なんですか?」
「新聞とかでさ、『理想の上司ランキング』っていって、有名人がランキングになったりするじゃない?」
「はあ」
「…知らないの」
「あるんですか、そういうのが…」
「まったくもう」
「無知ですみません」
「しょうがないなぁ。ま…いいんだけど」
「――『理想の上司』みたいな有名人が、あすかさんにもいるんですか?」
「有名人じゃないよ。
それと、理想の『上司』というより、理想の『先輩』。
見つけたんだ……きょう」