「……」
「どうしたんですか? あすかさん」
「きのう、部活の顧問の先生が、お昼ごはんをおごってくれたんだけどね」
「それはよかったじゃないですか」
「無邪気だね、利比古くんは」
「え」
「椛島先生っていう、若い女の先生なんだけど……なんかテンションがいつもと違って」
「はぁ…」
「…そうねえ、テンション高いときの、あなたのお姉さんみたいだった」
「姉みたいな…?」
「ま、頼れるし、いい先生なんだけどね。
ところで――、
利比古くん、あなたの学校で、いちばん美人な女の先生は、だれ?」
「ななななんでいきなりそんなこと訊くんですかぁ」
「――気になったからだけど。」
「答え……にくい、です」
「言うと思った。答えにくいですー、って」
「あすかさん……」
「若干、無茶振りだったのは、認める。
いずれ、利比古くんにも、学校の個性的な先生のこととか、紹介してほしいな、と、わたしは思ってる」
「個性的な先生ですか……」
「高校の先生って、なぜかキャラが立ってるんだよねー。利比古くんの桐原高校にも、そういう先生、いるでしょ?」
「たしかに」
「追い追い、でいいから、わたしに話してね」
「強制、ですか?」
「人聞き悪いなー。これは『強制』じゃなくて『約束』だよ」
× × ×
「せっかくの日曜だけど、まだ朝だし、エンジンかかってこないや」
「だけど――春休みに、入りましたよね」
「あ!」
「うわっ」
「春休み、で思い出した! センバツ! センバツを観なきゃあ」
「なにしてたんだろ、わたし。そうだよ、センバツの3日めだよ」
「あすかさん、野球、好きですね」
「あたりまえだよ。それに、野球観るのは『仕事』でもあるし」
「仕事、ですか」
「この春休みは、センバツの記事、書きまくりだよ」
「記事――ああ、校内スポーツ新聞」
「プロ野球のオープン戦も、チェックしないとね」
「忙しいんですね、あすかさんの、春休み」
「テレビ見せてよ」
「はい、お構いなく」
「ああっ」
「こ、今度は、なにごとですか」
「WEBで確認したら、甲子園は雨で第1試合が遅れるって」
「あー、待たないといけませんね」
「利比古くんの好きなテレビ、視(み)ていいよ」
「ん、いまの時間の、テレビか……どうしよっかなあ」
「日曜朝の番組編成には詳しいんだと思ってたけど」
「完全にテレビマニアなキャラですね……ぼくは」
「プリキュアがそろそろ終わる時間帯だよ。仮面ライダーでも、観る?」
「特撮は、あまり…」
「お兄ちゃんは仮面ライダーときどき観てるよ」
「ああ……、観てるとこ、見たことあったかも」
「大学生にもなって……と思ったりするけどね」
「ひとまず、テレ朝。
――お、ちょうど、プリキュアに変身するシーンだ」
「プリキュアって、何年やってるんですかね」
「それを把握しておくのが、テレビマニアの務めなんじゃないの?」
「えぇ……」
「わたし2003年産まれなんだけどさ。
最初に記憶にあるのは――『Yes!プリキュア5』」
「あすかさんもプリキュアを観ていたんですか」
「お兄ちゃんも観てたよ」
「アツマさんも!?」
「キモいよね。ダメだよね」
「……」
「――けど、しばらくしたらお兄ちゃんは観なくなったし、わたしもいつの間にか観なくなってた」
「卒業、ですか」
「そ。『スイート』か『スマイル』で、卒業した」
「それ、いったい何年前…」
「もう10年ぐらい経つんじゃない?」
「…人に歴史あり、ですね」
× × ×
「利比古くんの春休みは?」
「予定ですか?」
「予定、予定」
「休み中でも、登校して、KHKの活動を進めようと思います」
「番組、作るのね」
「ラジオ番組です」
「ラジオ! 面白そう」
「でも企画がなかなか進展してなくて」
「野球がテーマのトーク番組とか、いいんじゃない?」
「野球にこだわりますね……あすかさん」
「悪い?」
「いえ」
「ラジオ版『球辞苑』とか」
「BSでやってる番組ですよね」
「そうだよ」
「手間がかかる気も、しないでもないですけど――」
「うわああっ」
「どどどどどうしたんですか!! ビックリしたんですけど!?」
「甲子園が中止、っていう通知が、スポナビから……!!」
「全部の試合がですか?」
「うん」
「あちゃあ」
「わたしきょうなにすればいいっていうの、神様」
「あすかさんも大げさな……」
「てるてる坊主作っとくんだった。甲子園の方角に向かっててるてる坊主吊るしとけば、こんなことにはならなかったのに」
「どうですかねぇ…」
「神様~~!」
「…あすかさん、ひとまず、宿題をするとか」
「お勉強しなさい、と?」
「ぼくも、部屋で宿題やります」
「んーっ……」
「なんですか、その険しい表情……」
「てるてる坊主づくりの勉強がしたいよ」
「無理やり会話にオチをつけようとしないでください」