【愛の◯◯】愛、おまえのほうから、あすかに謝るんだ。なぜなら――

 

「アツマくん、お昼ごはんできた」

愛が、呼んできたので、

「わかった。おれ、あすかを呼んでくるよ」

と言ったところ、

なぜだか――、

愛の顔色が急変し、

 

「――呼べば?」

 

と、吐き捨てるように言ってきたのである。

 

「え……あすかのぶんも、作ってるよな??」

 

しかし、

 

「……いちおう」

 

怒ったような――捨てゼリフが、愛の口から発せられた。

というか、

99%怒ってるだろ。

しかも、

あすかに、対して――!?

 

× × ×

 

ともかく、あすかの部屋の前まで出向いた。

ノックしてから、

「おーい、愛が、昼ごはんできた、ってよ」

と声かけした、

のだが――、

 

『わたし、いい』

 

と、あすかが昼ごはんを拒絶。

 

『下(お)りたくない』

畳みかけるように言う、妹。

 

下りたくない、って――、

 

愛と、顔を合わせたくない。

 

そういう、意思表示に、違いない……!!

 

× × ×

 

「なんか、あすかのやつ……食べたくないって」

ハァ!?

 

愛、マジでキレてる。

 

なんなのよ、あの子!!

 

そこまで、キレるって、

普段なかよしのふたりのあいだに、

いったい、いったい、なにが……!?

 

「……ケンカか!?

 おれがおまえらから眼を離したスキに、なにがあったってんだ」

「……アツマくんの問題じゃないでしょ」

 

やにわに付けていたエプロンを外し、

そのエプロンを愛は、

キッチンの床に叩きつけた。

 

 

× × ×

 

おいおい。

日曜なんだぞ。

シャレになんねーぞ。

久しぶりに、昼飯の味もわからなかったが…、

とにかく事情聴取だ。

愛に構わず、あすかの部屋にふたたび行き、妹から話を聴くのだおれは。

 

 

いちおうノックはしたが、

「入らせてもらうぞ、兄貴の権限だ」

 

そして、ドアをガチャリと開けて、妹の部屋のなかに。

妹もなにやらガチャガチャと片付けみたいなことをしている。

 

「なにしてんだ」

「見たらわかるでしょ。ムシャクシャしてるって」

「……は~っ」

「なんなの!? 間の抜けたため息ついて」

「お兄ちゃんはな、警察なんだ」

「意味わかんない」

「愛とイザコザを起こした容疑で、あすかを事情聴取する」

 

眉間にシワを寄せるあすか。

 

「ほら、そんな顔すんな。大人しく事情を話せ」

「……」

「このままでいいのか? よくないよな?」

「……」

「『より』を戻してくれや、愛と」

「……」

「だから、お兄ちゃんに、なにがあったか話してみなさい」

「……一人称に、『お兄ちゃん』を使うのを、やめてくれたら」

 

× × ×

 

――、

そんな、

些細なことで、言い合いに。

 

「なんでそれで、ここまでこじれるんだよ」

「――愛さんが、無神経だって思ったから」

「面と向かってひとこと詫びれば済む話に思えるが?」

「どっちが!? どっちが詫びるってんの」

「いや、どっちからでも……」

「……愛さんが悪い」

 

いつもの『おねーさん』ではなく、

『愛さん』呼びになってる。

 

……怖ぇ。

 

「――ケンカは両成敗が原則じゃないのか?」

「だめ。ゆずらないから、わたし」

ゆずれない怒りか。

しかし、

むごいようだが――、

「アツマ警察の強権を発動する」

「……なに言い出すの!?」

「おれの部屋に来い」

「なんで」

「来るんだよっ!

 おれの部屋で、愛と顔を合わせるんだ。

 和解しろ!

 でないと、おれが……許さん」

 

 

× × ×

 

「なんでわたしまでここに呼ぶのよ…」

来たとたん、愚痴を吐く愛。

 

あすかに加えて、愛もおれの部屋に呼び寄せた。

 

ふたりは距離を取って床座り。

互いの顔を見ようともしない。

 

「…いま、おれは裁判官だ」

 

はあぁ!?

 

ふたり同時に声を上げる。

なんだよ……そういうところは息ピッタリじゃねぇかよ。

 

「このケンカは…どっちも被告人みたいなもんか」

「わけわかんないこと、言い過ぎないでよっ、お兄ちゃん」

「黙れ」

「な…」

「おまえらに判決をくだすのがおれの役目だ」

 

「なんでそんなにしゃしゃり出てくるわけ!? アツマくん」

「うるさい、愛」

「なっ…!」

「…先を急ぐが。

 結論から、言うとだな――、

 愛、これはおまえに責任がある。

 おまえから、あすかに謝れ」

 

「どうしてあすかちゃんの肩を持つの…」

 

「おまえのほうが、『おねーさん』だからに決まってるだろっ!!」

「……!」

 

どうだ。

痛いところ突かれたろ、愛よ。

 

「おまえ、卒業したよな!?

 もう、高校生じゃないよな!?

 もうじき、大学生だよな!?

 大学生になるんだろ!?

 コドモじゃないだろ!?

 だったら、大学生らしくない、コドモじみたマネはやめろ」

 

「責任が……わたしだけにあるわけじゃないし」

「口ごたえすんなよ」

 

非常に不服そうな顔つきの愛だが、

 

「そういう言い訳も、コドモじみてるんだよ」

と、構わずにおれは愛を追い詰めていく。

「いつまでも女子高生気分でいるんじゃねーよ。

 オトナになれや」

 

……さすがに、参ってしまったらしく、

つぶらな瞳になって、

哀願、という2文字が似合う表情で、

「アツマくん……どうしても、わたしが謝れって言うの……?」

と言ってくる。

「ああ。そうだよ。」

 

やや、沈黙があって、

 

とうとう、観念したような様子に、愛がなった。

 

恐る恐る……といった感じで、ようやく、あすかの顔に、向き合う。

 

よし……。

 

 

「あすかちゃん――、」

「――愛さん」

「『愛さん』は――イヤだな、『おねーさん』って呼んでよ」

「愛さん……」

「『おねーさん』呼びに戻ってくれないと、今度はわたし、あすかちゃんを呼び捨てにしちゃうよ?」

 

そうやって、苦笑い。

…謝罪はどうした。

 

「……じゃあ、おねーさん、って呼びます。おねーさん」

「――よろしい。

 で――、アツマくんのお説教じゃないけど、わたしのほうが、たしかに『おねーさん』だからさ、」

「はい……」

「……わたしのほうが、悪かったです。ごめんなさい。」

「――」

「そんなに、申し訳無さそうに、しないでよ――悪いのは、わたしなんだから。

 ねっ」

「おねーさんっ」

「あすかちゃんっ」

「おねーさんっ!」

「あすかちゃんっ!」

「おねーさんっ!!」

「あすかちゃんっ!!」

 

 

や、3回連続で呼び合う必然性、ないだろ。

 

まあ、いい……『より』は戻せたんだから。

 

和解のしるしに、

ふたりは抱き合って、

あっためあっている。

 

一件落着。

日曜日は……まだまだある。