【愛の◯◯】伝えてくれた想いは、まっすぐに受け取ってやる。

 

『MINT JAMS』のサークル部屋で、

ギンさんと、いろいろと話していたら、

ノックもそこそこに、

八木八重子が入ってきた。

 

「……ギンさんと、戸部くんだけですか? 来てるのは」

「おやっ」

「おやっ、ってなによ、戸部くん」

「あいにく、今まで、ギンさんとふたりきりだったわけだが――」

「――そう。」

「鳴海さんに――会いたかったのか?」

 

いきなりフリーズ状態になる八木。

 

「こらっ、反応しろ、八木」

 

ブンブンブンブン……と際限なく首を振って、

「ちがうもん、そんなわけじゃないもん」

「完璧に、図星な人間の反応だな……」

おれがそうツッコむと、

そんなことより!

突然の、暴力的なまでの、大声。

「……ビビらせんな」

と、たしなめるおれに向かい、

「戸部くん……きょうって、羽田さん、入試受けてるんでしょ」

おー。

やっぱり、言ってくるかー。

「ああ、受けてるよ。第二志望の学部だとか。気になるか?」

「わたし、羽田さんの先輩なんですけど」

「そうだったな」

「『そうだったな』じゃないよ。戸部くんは、羽田さんの受験のこと、気にならないの?」

「気にしてるよ」

「……心配してる素振(そぶ)りもないじゃない」

「平常心だ、八木」

「平常心、って」

「おれたちが、過剰に心配したって、しょうがないだろ?」

「……朝は?」

「ん」

「朝の様子はどうだったって訊いてるの」

「いつもと変わりない。いつもより元気だったかもしれない」

 

八木は、はぁ…とため息して、

 

「強いんだね、羽田さんも、戸部くんも」

「おれは――『きっとだいじょうぶだ』って、信じてるから」

それと、

「八木が、あいつのことをそんなに気にしてくれてて、うれしいよ」

「――あたりまえでしょ」

「ありがとよ、八木」

 

おれたちのやり取りを見ていたギンさんも、

「彼女なら、絶対に受かるよ」

と、気持ちを込めて、言ってくれる。

「ありがとうございます、ギンさん」

感謝するおれ。

 

× × ×

 

足音がして、

ノックもなしに、どーん、とドアが開かれる。

 

「――なんだよ、ルミナかよ」

「来ちゃ悪い」

「わるかーない」

「じゃあもっと歓迎してよ」

「歓迎してあげる代わりに――」

「?」

「おまえも、愛さんを応援してやってくれ」

「え、入試受けてる、とか!?」

 

「今、受けてる最中なんです、ルミナさん」

おれが言う。

「マジ!? 大変じゃないの」

「大変といえば、大変なんですかね」

ここにいる場合なの戸部くん

「いや、付き添いとか、あんまり保護者的なことは……」

彼氏が付き添っちゃいけない法律なんてないでしょ

「……おそらく」

 

 

× × ×

 

ルミナさんの勢いに圧倒されて、帰ってきた。

きょうは寒いから、あいつが入試から帰ったとき、苦情を言われないように、暖房の設定温度を高めにした。

 

ほかに――あいつのために、しておいてあげたほうがいいこと、なにかあるだろうか?

おれは考えた。

 

考え続けて、

少し、頭がこんがらかりかけていたところに、

あいつ以外のだれでもない足音が――聞こえてきて。

 

朝と変わらない、

元気な様子の、愛が、

おれの眼の前に、やってきた。

 

「ただいま。」

「…おつかれ」

「『おかえり』って、言えないの?」

「ばーか。『おつかれ』が、『おかえり』だ」

「なにそれ」

 

『ほんとしょーがないんだから……』と言いそうな表情も、

きょうは、すぐに、

『ま、いっか』という、微笑みに変わる。

 

「その様子だと……なにごともなかったみたいだな」

「なかったよ。なにごとも」

 

――ということは。

 

えっへん、と、Vサインを、おれに見せつけて、

 

――圧倒的自信。

 

そんなことばで、きょうの入試を、結論づける。

 

きょうだけじゃない。

 

おとといの第一志望の入試にしたって、こいつは、圧倒的自信を感じてるはずだ。

 

つまり、

「乗り越えられたみたいだな――受験を」

「気が早いよ、アツマくん」

「ひと段落したことは、たしかだろ?」

「――それもそうね」

 

ふぅ。

 

「なぁ、寒くないか? もっと暖房、効かせてやろうか」

「いつになく、気くばりね」

「……べつに」

 

愛はおれに近寄って、

「ね、今晩、わたしの部屋で、打ち上げしようよ」

「打ち上げ? 受験の?」

「そ」

「あんまり夜ふかしはイヤだぞ。あしたおれ、バイトだし」

「夜ふかしなんかしないよ」

「約束だぞ」

「うん♫」

「……素直だな」

「利比古とあすかちゃんも呼んで、マッタリやろうよ」

「それがいい、それが」

「決まりね」

 

 

――部屋に上がっていこうとする愛に、

「なあ」

「どしたの?」

「……おつかれさまでした」

「……さっきも言ってくれたじゃないの」

「いや、あらためて」

「あらためて、か。

 わたしのほうからも――、

 ありがとう、ずっと受験、見守ってくれて」

「まだ合格発表がある」

「こまかいなあ、アツマくんは」

「――、

 これからだって、おまえのことは、見守っていくから。

 ずっと。」

「――カッコいいこと、言っちゃってぇ」

「笑いやがって」

「笑いどころでしょ、ここは」

「本気だっ! おれは」

「……うん。

 ほんとは、わかってる、本気だって」

「ったく」

「ふてくされないでよ」

「とにかく、おまえは……ゆっくり休めっ!!」

「わかった、わかった」

 

休め、って言ったのに、

なぜか、おれのところに戻ってきて、

「……アツマくん。」

「ど、どうしてこっちきた」

「……あらためて、あなたに感謝したくって」

「え」

ありがとう……。

 これまでも、いまも、これからも、

 ありがとう

「――わけわかんねえ」

「わけわかんなくても、いいから。

 受け取って。わたしの『ありがとう』を」

 

そう、お願いする愛を、まっすぐにおれは見て、

 

成長したんだな――こいつも、って、

 

そう、素直に感じたから、

 

わかった。受け取る。

 

迷いなく、はっきりと――そう答えた。