【愛の◯◯】姉に代わっておしおきよ!?

 

「~♫」

「楽しそうですね、あすかさん」

「利比古くんだ」

「ハイ利比古です」

「……利比古くんも元気いいね」

「――あの、」

「なに?」

「それが、もしかして、『ホエール君』ですか?」

「あー、わたしが持ってるぬいぐるみ?

 そうだよ、これが『ホエール君』」

「かわいいですね」

「でしょっ?

 ――これ、実は2つ目の『ホエール君』なの」

「? どういうことですか」

「もとからあったのに加えて、きのう、ゲームセンターのクレーンゲームで新しいのをゲットできて」

「ああ、同じぬいぐるみがもうひとつ、手に入ったんですね」

「厳密には同じじゃなくて、微妙に違うんだけどね」

「デザインが、ですか?」

「まー、そゆこと。

 これ、ホエール君『2号』」

「『1号』は――」

「部屋に吊るしてある」

「なるほど」

「――さわってみる?」

「え」

「――ま、さわってもなんにも面白くないか」

「そ、そんなことないです」

「テンパるとこ? そこ」

 

「利比古くんは、ゲームセンターとか行かないの? わたしもたまにしか行かないけど、きのう行ったら楽しかったよ」

「そういえば、行かないですね」

「興味ないの」

「興味ないというか、お小遣いをあんまりムダ使いしたくないというか」

「……ケチ? 利比古くんって」

「かもしれません」

「『かもしれない』じゃないよ、利比古くん絶対そうだよ」

「け、ケチって決めつけないでくださいっ」

「あのねー、あなたがあいまいな物言いばっかりしてるのが、いけないんだよ」

「う」

「『う』じゃない。

 ゲームセンター行くのに気が進まないとか、そういうわけじゃないんでしょ? 予算の都合以外で」

「…はい。」

「じゃあ、こんどわたしといっしょに行ってみよっか」

「あすかさん…と!?」

「わたし同伴がイヤなの」

「違います。……ただ、姉もゲームセンター行きを自粛したことですし」

「利比古くんは、おねーさんじゃないじゃん」

「はい……」

「利比古くんは、利比古くんだよ」

「はい……」

「決まりだ。こんど連れていく」

「決定なんですか」

「あなたの相づちの打ちかたがワンパターンなのが悪いんだよ」

「はい……」

「――次から、同じ相づちを3回続けたら、おしおきだからね」

 

× × ×

 

「なんか怒らせてしまったみたいで……すみません」

「あなたが怯えるほど怒ってはいないよ」

「で、でも、怒ってはいる、ってことですよね」

「さーどうかなー??」

「…『あいまいな物言いはやめて』って、あすかさん言いましたけど。

 あすかさんにしたって、微妙な物言いを……」

「不満??」

「怒ってるのか怒ってないのか、ハッキリしてほしいです」

「怒ってる」

「……どうお詫びしたらいいですか」

「そうねえ。

 そこにPCがあるでしょ?

 このPCで、いまからわたしの作ったプレイリストを再生するから、利比古くんはずっと聴いていなさい」

「えっ、音楽聴くだけでぼく、許されるんですか」

「プレイリストを2時間聴かされるの刑」

「どんな刑罰ですか……」

「2時間ってそうとう長いよ」

「……集中力には自信、ありますけど」

「お」

「『お』じゃないですよ、あすかさん」

 

× × ×

 

「これは――なんて曲ですか?」

「どーして自分から確認しようとしないのっ、画面に表示されてるでしょっ」

「見ていいんですか、あすかさんのPCの画面」

スマホじゃあるまいし」

「では――」

ちょちょちょっと、寄りすぎ!!

あすかさんがうまくどけてくださいよっ

 

「――トライセラトップスっていうバンドの、『Raspberry』って曲なんですね」

「そうだよ、わたしのバンドのレパートリーなの」

「『ソリッドオーシャン』でしたっけ……バンド名」

「利比古くんが酷評したバンド名ね」

「改名する案は出ないんですか?」

「棚上げ」

「……それはそうと、『Raspberry』はいい曲ですね」

佐野元春が褒(ほ)めたって、ウィキペディアに書いてあった」

佐野元春……?」

「利比古くん勉強不足だぁ」

「べっ勉強不足もなにもないと思いますけどっ!」

「急に早口になった」

「……いじめないでください」

 

「ほら、これが佐野元春の曲だよ」

「もろに1980年代って感じ、ですね」

「よくわかったね、さすがおねーさんの弟。

『SOMEDAY』ってアルバムに入ってるんだけど――82年、だったかな」

「もう40年近く前――」

「どんどん時代、さかのぼってるね。トライセラの『Raspberry』にしたって97年のシングルだし」

「――、

 いい曲だったら、時代とか、関係ないじゃないですか

おおっ!?

「オーバーリアクションは自重してくださいよ……」

「だって、お兄ちゃんと真反対のこと言うんだもん、利比古くんが」

「真反対って」

「お兄ちゃんはとにかく時代にこだわるの。ブリットポップは平成だとか、ブリティッシュ・インヴェイジョンは昭和だとか」

「はぁ…」

ビートルズ来日が昭和41年だよね、とか言ってくるの。お兄ちゃんヒドくない!?」

「そう言われても…」

「…その点、利比古くんは、かしこい。『いい曲に時代は関係ない』なんて、なかなか言えない」

「久々に…あすかさんに、褒(ほ)めちぎられた気がします」

「あらそう。もっともっと、『かしこい』って言ってあげようかしら?」

「なっなんでいきなり姉のような話しかたになるんですかっ」

「マイブームなのよ」

「ええぇ」

「さて、このプレイリスト、まだまだ先は長いわよ。」

語尾が……

「しっかり聴きなさいよ~」

「あすかさん、語尾が」

「聞き分けがないわねえ。姉に代わっておしおきよ」

「――単に、サマになってないです」

悪かったわね!!

「……あすかさんはあすかさんなので……」