【愛の◯◯】あたしはあたしを変えられる

 

あたしは、自他ともに認める、飽きっぽい性格だと思う。

 

本を読んでいても、半分もいかないあたりで頭がこんがらがっちゃって、読むのを投げ出してしまう。

読み終えるのに、挫折して、挫折して……の繰り返し。

ほぼ読破できない。

できない、のは――やっぱり、飽きっぽい性格に起因するんだろう。

文芸部員なのにね。

なさけない。

 

本だけじゃない。

音楽なんかもそう。

あたし聴き専だけど――アルバムが、最後まで聴いていられない。

40何分のアルバムでも、半分過ぎたあたりで……ダレてきてしまう。

アルバムを最後まで再生していたとしても、うしろ半分は、聴いていないのとおんなじ。聴き流しってレベルじゃない。

飽きっぽいから――サブスクでプレイリストをシャッフル再生するけど、そのプレイリストもすぐに飽きる。

 

サブスクで映画を観ようとしても、やっぱり半分くらいで気が抜けてしまって、ついつい飛ばし飛ばしに――これって、観てないのとおんなじだよね。

そんな、何事につけても飽きっぽいあたしだから、せっかく脳に浮かんだ創作のイメージも、いざ書き始めてみると、すぐに続かなくなる――それが自明の理だと思ってた。

表現したいイメージはあるけど、そのイメージを落とし込む表現媒体の見当もついてなくって、もし見当がついたにしたって、書き始めた途端に、書きあぐねる以前の問題で、どうせ投げ出してしまうだろう――。

そう半ばあきらめてた。

あきらめたまま卒業するんだと思ってた、

ところに、

『6年劇』の伝統が復活して。

オリジナルの脚本を募(つの)られて。

思わずあたしは手を上げた。

イメージは、あったんだ。

あったから、イメージを「かたち」にするチャンスは、もう今しかない! 

…そう思って、あたしは手を上げた。

 

……でも、飽きっぽいあたしだから、「あたしだけで」脚本を書くのは、ハッキリ言って難しいと思った。

あたしが投げ出したら、『6年劇』の当事者――高等部3年のみんなに迷惑がかかる。

そんなリスクを負ってでも、それでもあたしは手を上げた。

 

手を組めばいいんだ。

信頼できる子と、手を組めば。

 

羽田さんを巻き込んで、脚本をふたりで書くことになった。

巻き込まれた羽田さんも、リスクを負うことになる。

でも、羽田さん、ぜんぜんイヤな顔せずに……。

あたしは羽田さんを全面的に信頼できる。

羽田さんも、この脚本に全力で取り組んでいて――何より嬉しいのは、彼女もあたしを信頼してくれているってこと。

 

羽田さんと、支え合えば……、

 

……あたしはあたしを変えられる。

 

 

どうしたの…………、松若さん??

テーブルの向かいの羽田さんがキョトーン、としている。

右斜め前方の川又さんも、あたしの唐突な独り言に眼をまん丸くするばかり。

「ごめん。

 思ってたことが、つい、口に出ちゃって」

「松若さん、『あたしはあたしを変えられる』って、どういう……」

羽田さんが真面目に問いかける。

「あー。

 かっこつけだけどね、

 あたし、この脚本完成させて、自分自身を変えたいんだ。

 …革命的にね」

「革命的って、なんなんですか……センパイ」

訝(いぶか)しそうに川又さんがツッコんでくる。

「なんなんだろうね。

 でも、かっこつけついでに、言っちゃったんだ。」

あたしの言うこと、川又さん、わけがわからなく感じてるかもしれない。

ゴメンね――と思っていたところが、

「松若さん、ぜんぜんかっこつけじゃないよ、それは。

 自分を根もとから変えたいっていう松若さんの『決意表明』、すごくひたむきな感じがして……わたしは素敵だと思う!」

とびきり美人な笑顔で、

羽田さんが…言ってくれた。

 

胸がいっぱいになる…。

 

× × ×

 

「ところで松若さん、」

脚本を赤ペンでチェックする手を止めて立ち上がった羽田さんが、

ごはんとお風呂、どっち先にする?

 

「……そういうセリフは、自分の旦那さんになる人にとっておくべきだよ」

 

どっどうしてっ松若さん

 

テンパらせちゃってる。

(…あるいは、アツマさんに言ったりしているのかもしれない。)

 

「松若センパイ、わたしたちお泊まりするんですから、ごはんとお風呂どっち先にするかは、まじめに決めたほうがいいと思いますよ」

「そうだよね、脚本合宿なんだよね、お泊まりなんだよね、これ」

「脚本合宿なのになぜ『6年劇』に関わらない後輩のわたしが連れて来られたのか、不可解なんですが……」

 

「そうだ、お風呂先にしよ。それでいいよね? 川又さん」

「いいですよ、松若センパイ」

「了解、松若さん」

 

そして羽田さんはお風呂場の方へと消えていった。

川又さんとふたり。

 

「ねぇ川又さん、このお邸(やしき)のお風呂場は大きいんだってさ」

「そうなんですか。」

「…楽しみじゃないの??」

「大きいに越したことはないですけど…」

もっと楽しそうにしてよぉ

 

「……」

「……」

 

「――なんかセンパイ、不埒(ふらち)な眼になってませんか?」

え~どっこも不埒じゃないよぉ

「――、わたしの背中流したいとか思ってるんでしょ」

ダメなのぉ!?

「スケベですね」

「ハッキリ言うんだからっ」

「……わたしがそんなにかわいいんですか」

「かわいいよ~」

「センパイもずいぶんはっきりと言いますねえ。

 ……どうしてですか?

こどもだから

……どんなところが、こどもなんですか?