部屋でスポーツ雑誌を読んでいたら、愛がドアをドンドン、と叩いて入ってきた。
……なんか疲れてないか?
愛のやつ。
消耗している感じがする。
グロッキーっつーのか。
おととい、「たるんでるんじゃねーの?」みたいなことをつい言ってしまったんだが、実際はたるんでなんかなくて、何かを、頑張りすぎるぐらい頑張っている…。
「ずいぶんくつろいでるわね」
元気が、ない。
ここはひとまず、
「悪いな……なんか、おれだけ、怠けてるみたいで」
愛は首をぶんぶんと振り、
「悪いなんて思ってないから」
それはありがたいお言葉。
だが、
「忙しいんだな……おまえ」
「どうしてわかるの……?」
ほら、
やっぱり言った。
すっかりおなじみの「どうしてわかるの」だ。
あまりにもテンプレートな流れなので、思わず微笑(わら)ってしまう。
「笑わなくでもいいじゃない。いくらわたしが『どうしてわかるの』って言ったからって」
「すまん、すまん」
「で…、わたしが忙しいって、どうしてわかるの?」
「……」
「ちょっと、アツマくんっ」
「……天然か? おまえ」
「あ、あのねえ」
「――そりゃ、見るからに疲れてるからだよ。
だれが見たって、『疲れてる』って思うさ」
「そんなに疲労が外に滲(にじ)み出てるかしら」
「――頑張ったんだよな。
だから、疲れを隠せないんだ」
× × ×
そして案の定、おれの左隣でベッドに腰掛ける愛。
はぁ……、と息を吐いて、
「受験勉強と文化祭の仕事のダブルパンチよ」
「文化祭の仕事って……ああ、劇のことか? 昨日話してたよな」
「脚本。」
「脚本か――骨、折れるよな。おれには絶対できないから、想像でしかないけど」
「からだじゅうが痛いわ」
「そ、そんなにか…」
「スポーツよりよっぽど消耗するのよ」
「――出来る見通しは?」
「ほんとは週末に持ち越したくなかったんだけど、きょうの放課後で終わらなかったから、土日は邸(いえ)にカンヅメよ」
小説家みたいなこと言ってる。
「それでね――」
――不意に、愛が、おれの左腕を抱きしめてきた。
抱きしめながら愛は言う、
「ふたり、泊まりに来るから――土日」
「ふたりって、だれが」
「文芸部の松若さんと川又さん。」
「川又さんはおまえの後輩だよな。邸(いえ)に来たこともあるよな」
「松若さん知らないの」
「ん…夏休みのセミナーに、一緒に参加したんだっけか?」
「そう、その子。
劇の脚本は、松若さんとふたりで書いてるのよ。だから――」
「…なんで川又さんまで?」
おれの左腕を抱きしめる愛の握力が、心なしか強くなっている気がする。
「もう誘っちゃったから。来るから。ふたり」
「おれの疑問はスルーか」
川又さんも泊まりに来る理由の説明を完璧にスルーして、
腕を抱きしめたまま、左肩に寄り添ってくる。
……なんだコイツ。
「アツマくん」
「はいなんでしょーかーっ」
「疲れた」
「言われなくてもわかってる」
「広島カープの某OBみたいなこと言うわね」
「だれ?」
がっかりしたみたいに、ふにゃっ、とおれの身体(からだ)にくっついたかと思うと、
「アツマくん……もっと野球知ってるかと思ってたのに。しくしく」
「嘘泣きすんな」
「あなたに言われなくてもわかってるわよ」
…今度バッティングセンターにでも連れてってやるか。