【愛の◯◯】耳たぶの微熱

 

旧校舎を歩いていたら、

身長140センチ台と思われる小柄な女子生徒がいきなり走ってきて、

ぼくのからだとゴツン! とぶつかった。

 

言うまでもなく――麻井会長だった。

 

「もう、危ないですよ。」

そう言って、なだめるように、彼女の右肩に手を置いて、

「――どこも、怪我してないですか?」

と確かめようとしたら、

 

羽田……気安くアタシに触るなっ、無神経

 

言葉では、いつものように罵倒しているのだが、

顔が、極度にうろたえていて、

小学校低学年の女の子が、微熱を出したような――そんな表情になっていた。

 

どうしたのかな。

 

走って、ぼくから逃避するように、【第2放送室】に向かおうとしたので、

「廊下を走ると危ないですって。転んじゃったら会長たいへん――」

と声をかけると、

ぴたりと立ち止まって、

……小学校の先生みたいなこと言わないでよ。子供あつかいしないで。

そうとう弱々しい声で、突っぱねてくるのだ。

「羽田はなんで【第2放送室】と逆方向なの」

「別に用があるので。遅れます」

会長はぼくに背を向けっぱなし。

ほんとうに心配だったので、

「廊下は歩きましょうよ。会長」

と言ったら、

念を押すなっ

と、上ずったような声を出すのだ。

ぼくのほうを、少しも見てくれない。

しおしおと、歩きだす、彼女……。

 

麻井会長の、ある異変が、ぼくの目に留まっていた。

ある瞬間から、

彼女の耳たぶが、とても赤くなっていたのだ。