夜、後輩の板東なぎさから、電話がかかってきた。
『こんばんは~、会長』
「……何」
『会長、夜、さみしいんじゃないかと思って』
「……なにそれ」
『――あんまり眠れてないんじゃないんですか~~?』
「どうしてわかるの……」
ぎくりとして、
思わず、心の中の「どうしてわかるの」が、声に出ていた。
睡眠が問題なのは事実だった。
夜中に目が覚める。
朝起きると、気分が悪い。
『――会長、じつは、ここからが本題なんですけど』
えっ…。
『家出したんですか? 会長』
「どうしてわかったの!?」
『…そんなに大きい声出して、大丈夫なんですか?』
「…どうしてわかったの、ってきいてんの、アタシは」
『噂、ってのは広がりやすいものなんですねー。勝手に耳に入ってきました』
耳たぶが、火が出るほど熱くなっていた。
『……どうしようもなかったんですね、会長。
でもなんで羽田くんのところに?』
「――そこまでわかってんの!?」
『わかってんです』
布団にもぐって、恥ずかしさを鎮めようとしても、無理だった。
『ずるいです。会長だけ』
「は??」
『じぶんだけで抜け駆けで羽田くんちに行って。
わたしだって、羽田くんのお邸(やしき)がどんななのか、みてみたいです』
「なぎさ――」
『そこでですねぇ』
笑い出しそうななぎさ。
『提案が、あるんですよね……』
× × ×
【第2放送室】。
羽田とクロが、料理番組のテキストを前にして、ウンウンうなっている。
「料理番組するって、決めたは決めたんですけど……」
「なにを作ろっかなあ……?」
「料理番組のテキストの丸パクリってのも、いかがなものかと…」
「参考にはなるけどねえ…」
「…姉にお料理、もっと教わっとくんだった」
「…ぼくも、家事をもっとちゃんと手伝っとくんだったよ」
ウダウダうっさい。
「連絡!!」
「ひ、ひえっ」
「おびえるなっ、クロ」
「なんですかいきなり連絡って、鼓膜が破れるじゃないですか」
「黙れ、とりあえずこっち向けっ、羽田」
全員を見渡して、アタシは宣言する。
「合宿!!
合宿やるよ、今度の連休」
「合宿!? ずいぶんいきなりじゃないですか!? でも、場所はどこで――」
「アンタの邸(いえ)」
「ぼ、ぼくの!?」
「だって羽田、アンタが居候してる邸(いえ)、有り余るほど部屋があったじゃないの。泊まるにはうってつけ」
「そっ、そうですけど……」
「なにか、不都合でも?」
「……また家出したい、とかじゃないですよね?」
「なーーーんでそんなにひとことおおいのかなぁアンタは!」
「ぐ、グリグリしてくるのはやめてくださぁぁい」