東京の天気予報は、雨時々くもり。
非常に強い台風10号が、九州地方に接近しているという。
西日本の皆さんはどうか用心してください。
備えあれば憂いなし、っていうし……。
× × ×
リビングで、兄が、エアロバイクを漕いでいる。
「どうしたの、お兄ちゃん。エアロバイクなんか持ち出してきて」
「悪いかぁ?」
「そりゃ…悪くは…ないけど」
「トレーニングだ」
「…そう」
「最近なまけてたからさ」
「……そう」
「ちょっと、気合を入れ直さんといけないと思ってな」
それ以上、体力をつけて、どうするの――と思っちゃったりもする。
ものすごい勢いでエアロバイクを漕ぎ続ける兄。
テレビで、競輪選手のトレーニングを観たことがあるけど――まるでそんな勢い。
「――すごいね、お兄ちゃんは」
「お?」
「どうして、そんなに頑張れるの?」
「誰だって頑張ってるだろぉ。――おまえだって」
「そ、そういう意味じゃないじゃん。お兄ちゃんみたいに身体(からだ)を鍛えられるひと、なかなかいないじゃん」
「そうかもな――」
エアロバイクから降りた兄は、腕立て伏せを始めた。
鍛えるお兄ちゃんを見るの……なんだか久しぶり。
「どうした、あすか?」
「……」
「フルーツ牛乳を飲む手が止まってるじゃないか」
「…べ、べつにっ」
「さっき、うっとりするような眼になってたぞ」
笑いながらわたしの弱みを指摘してくる兄。
「残念ながら、おれは見逃さなかった」
「…べ、べつにっ!? うっとりなんかしてないし」
「おれの鍛える姿にホレボレしたか~?」
「ば、バカバカっ!! なにナルシストみたいなこといってんの」
バカなことを言ったかと思うと、
今度はいくぶんマジメな口調で、
「あのさ……。
おれはこうやって体力、つけてるけどさ。
世の中には――、
体力、つけようと思っても……つけられないひとって、いるだろ?
おれは……そういうひとのためにも、というか、そういうひとのぶんも、というか……そういう気持ちで、頑張ってる面も、鍛えてる面も、あるんだ。
ただやみくもに身体(からだ)をいじめてるんじゃなくってな。
……頑張ろうとしても、頑張れないひともいる。
そういうひとたちの思いを、背負ってる……なんて、言いすぎかな?」
「言い過ぎじゃ……ないと思うよ。」
「どうしてあすかはそう思う?」
「現在(いま)の、頑張ってるお兄ちゃんが……証明してるから」
「おおっ!? やっぱおれのトレーニング姿に惚れてしまったのか!? 妹よ」
「そんなわけないじゃん!!! 言って損したっ!!!」