「アツマくん、りんご飴って、食べたことある?」
「そういえばないなぁ」
「屋台で売ってるりんご飴って、キレイだよね。色がキラキラしてて」
「ふーん、愛はああいうのにときめくのか」
「ときめくわよ。…りんご飴、どんな味がするのか気にならない?」
「どんな味するんだろうなあ。想像と違った味がするのかもな」
りんご飴の味、食べてみなければわからない、か。
夏祭りが今週末に迫っている。
いろんな方面からたくさん人が集まってきて、おれたちのグループはなかなかの大所帯になりそうだ。
いちいち誰が来るか把握してたらキリがないくらいに。
『班分けしようか』という案も戸部邸内部から出たが、まぁ、そこまでする必要はないだろう。
「浴衣の着方わかる?」と愛が訊いてくる。
「わかんねえなあ……そういえば」
「頼りないわねえ」
「わるかったな」
「そんなんで引率役できるのかしら」
「おれが引率役なのは動かぬ事実なのか…」
「とにかく、浴衣の着方ぐらい覚えてよね」
「流さんが知らないかなあ?」
「まーたそーやってひとに頼るー」
「しょうがねーだろ。なんなら、おまえに教えてもらってもいいんだが」
「ヤダ」
「なんで」
「胸に手をあてて少し考えてみなさいよ」
浴衣は自分でなんとかする羽目になった。
それはそうとして――、
この前、「あと半年でいまの学校も卒業なんだよね」みたいなことを愛が言っていたのが気にかかっていて、そのことについてもっと話し合ってみたかった。
だからおれは、夏祭りのチラシを見ながら鼻歌を歌っている愛に対して、半ば唐突に、
「あのさ…」
「え、あらたまったみたいに、どうしちゃったの」
「おまえさ…」
「わたしがどうかしたの?」
「………高校生っぽいこと、もっとしたくないか?」
おれの問いかけに、『あー』と把握したような顔になって、愛はこう答える。
「してるよ、高校生っぽいことなら。
ほら、この前セミナーに行ったじゃん。
読書セミナー。
あれは――すっごく高校生っぽい体験だったな。
他校の生徒ともいっぱい触れ合えたし。
男の子と席を並べるのも、新鮮だった。
共学の学校みたいで、普段と違う楽しさがあった。
なんというか――『青春』だった」
「そんな良かったんか、セミナーは」
「明日美子さんの秘密も知れた、っていうオマケつきだったし」
「そりゃ関係ないだろ」
「でもわたし、まだ満足してないよ」
「ほほぉ」
「夏祭りだってあるし」
「夏祭りも、『青春』なのか?」
「なんだっていいじゃないの!」
「いいのかよっ!?」
「あのねえアツマくん、無理になにかやろうとしなくてもいいんだよ、わたしのために」
「でもよぉ……」
「あー、デートには連れて行ってよね、今度」
しょーがねーやっちゃ。
「結局、そうなりますか」
「なるよ。あたりまえでしょっ」
周りにだれもいないのを確認してから、愛はボショッとつぶやく。
「もっと、アツマくんをひとりじめにしたいもん…」
「…前後左右を確認する必要はあったのか?」
「恥ずかしいからに決まってるでしょ!!」
「わーったわーった、そんなに背中をポコポコ叩かんくても」