・音楽誌『開放弦』 公式ブログより
「サザンオールスターズ 80年代中期の3枚のアルバム」
輝三「『ステレオ太陽族』(81年)もいいんだけど、『綺麗』(83年)。大人な雰囲気が充満してるアルバムだ。おれは「赤い炎の女」とか好きだな」
小鳥遊「テル先輩!」
輝三「なんだ~?」
イチロー「いやテルよ、そこで『学生注目!』みたいなリアクション出さなくてもいいだろ」
小鳥遊「イチロー先輩……ちょっと言ってる意味がわからないです」
イチロー「世代間ギャップ!?」
輝三「『学生注目!』がどこでも通じるわけじゃないよ」
イチロー「しょぼーん」
輝三「…質問でもあるのかい、小鳥遊」
小鳥遊「「EMANON」って曲があるじゃないですか」
輝三「ああ、『綺麗』で唯一のシングルA面曲だね」
小鳥遊「「EMANON」ってどういう意味なんですかぁ?」
輝三「それはだね……文字を、ひっくり返してご覧」
小鳥遊「文字をひっくり返す…反対から読む…アッ、「NONAME」!!」
輝三「そういった仕掛けが、隠れているんだよ」
小鳥遊「すっごーい!!」
イチロー「しょぼぼぼーん」
イチロー「ところでなんでいまサザンの80年代アルバムなの」
小鳥遊「勘が鈍いですね」
イチロー「何ィ!?」
小鳥遊「海の日が近いからに決まってるじゃないですかぁ!」
イチロー「あぁ…海の日が近い、海といえば湘南、湘南といえばサザン、そういうことであると」
輝三「『綺麗』も好きだけど『人気者で行こう』(84年)はもっと好きだなあ」
小鳥遊「「開きっ放しのマシュルーム」(4曲目)って、面白いタイトル」
輝三「……」
イチロー「……」
編集長「……」
小鳥遊「えっえっ、皆さんどうかしちゃったんですか」
イチロー「……小鳥遊、『人気者でいこう!』っていうテレ朝の番組、知らない?」
小鳥遊「しらないです」
イチロー「『格付けチェック』ならわかるだろ。あれはもともとあの番組が発祥なんだが…『人気者でいこう!』っていう番組タイトルは、たぶんこのアルバムが由来じゃあないかなあって思うんだ」
輝三「そうなの?」
イチロー「だって…」
小鳥遊「『だって…』じゃないですよ! サザンの話、しましょうよぉ~」
輝三「そうだな。『人気者で行こう』っていう名盤について、もっと語りたいや」
イチロー「(たいそう不満げに)南たいへいよ音頭!!」
輝三「違うだろそれは。「南たいへいよ音頭」は『綺麗』の曲だろう?」
編集長「イチローなにがしたいんだお前」
イチロー「なにもしたくないです編集長」
編集長「海でも行ってくれば?」
イチロー「南太平洋……」
編集長「遠いなあw」
イチロー「遠いですかね」
・・・・・・・・・・・・
「――『サザンオールスターズ 80年代中期の3枚のアルバム』っていう題なのに、いつまで経っても『KAMAKURA』の話に行かないんだもんなぁ」
「半笑いでひとりごとしないでよ、ギン」
「あっごめんルミナ」
「PCモニターに食いつきながら半笑いだといっそうオタクくさいよ」
「オタク……なのかなあ、おれって」
「どうしてそこで悩んじゃうの……ギン」
「反応がおおげさ」
「……ま、いっか。ギンがオタクでもオタクじゃなくっても。
それ以前に、大事なことって、あるよね」
「あるの?」
「鈍感」
「エッ」
なぜか、拳を握りしめるルミナ。
おっかない。
おっかないなあ、と思っていたら、おもむろに話題を転換して、
「――ねぇ、ギンは戸部くんや鳴海とかとプール行ってんのよね」
「そうだよ。サークルのあとにな。音楽聴いてるだけじゃ身体がなまっちゃうからな」
「楽しい……?」
「楽しいぞ。…なんだ、ルミナも興味あんのか?」
「べ、べつに」
「来てもいいんだぞ」
――ルミナが不機嫌になっちまった。
ルミナとプール、か。
最後にルミナとプールに入ったのは――高校の水泳の授業だよな。
もっとも高校の水泳の授業だし、ほとんど男子と女子の接触なんてなかったが。
でもなんでプールのことなんか訊いたんだろう。
「――変な話、してもいいかな」
「??」
「あのさ…、
もし、
もしあたしが、
『ギンに見せたい水着がある』なんて言ったら、
ギンは……ドン引きしちゃう?」
「どうせ冗談だろ。ドン引きしたりしないよ」
「冗談じゃなかったら」
「え」
「あたしさ……水着買ったんだ」
「……もしかして、普通の温水プールじゃ、着れないようなやつか」
「そゆこと。」
「レジャー施設としてのプールに行きたい、と?」
「うん……」
「まぁこのブログはフィクションだとして、」
「……」
「そんなことしてるヒマ、ないんじゃないのか」
「……もちろん今はないよ。
ないんだけどさ。
試験とか、いろいろ――ひと段落、したら」
「そっかぁ。
見せたいかぁー、水着」
「なにそのビミョーな反応」
「見せたいから買うんだよなー」
「――あたしたち4年生なんだよ。
もうこういう機会、あるかどうかビミョーでしょ。
あんたと一緒に行って盛り上がるかどうか正直ビミョーだけど。
これはビミョーなんだけどさ…でもあんたと、が、あんただけと、が、あたしは良いな~って、思ったりして…。
も、もちろんスタイルとかビミョーだよ、あたし。
でも……」
「『ビミョー』が口癖なのか? おまえ」
「ビミョー」
「…おい」
「…」
「…」
「…言って、後悔しちゃった」
「後悔とかするもんじゃない、ルミナ」
「……ビミョーな反応だね、ギン」
「デートがしたいなら、『デートがしたい』って素直に言えばいい」
「!」
「回りくどくなくていい。
本音を言ってほしい。
いつから顔なじみだと思ってんだ?
腐れ縁だからこそ――本音で言い合えるんじゃないのか」
「――じゃ、本音の、約束。」
「なんだ~?」
「戸部くんにはナイショだよ」
「おー」
「『おー』、じゃないでしょ。
まったく。
鳴海にも、絶対ナイショにして」
「おー」
「まったく…」
『しょうがないなあ』と言いたげだったが、ルミナは柔らかい笑顏になっていた。
その柔らかい笑顏に、少しだけドキッ、となってしまったのは、
ナイショだ。
「わかったよ。
約束は守るよ、ルミナ」
「男らしい声になっちゃって~」
「っるさい」
「素敵、素敵」
「ちぇっ」
「ギンのそういうところ――素敵だから、あたしはスキ」
「んっ……」