「お兄ちゃん、やけにくつろいでるね」
「悪いか?」
「大学は終わったの?」
「前期はもう終わりだ。レポートも全部出しちゃったからな~」
「…単位落としたら、お仕置きだよ」
「ヒエッ」
「わざとらしいリアクションやめてよ」
「夏休みは? バイト?」
「そうだな。いつもの喫茶店で」
「いつまで?」
「9月の終わりまでだな~」
「休み長くていいよね」
「すまんなあ」
「車の免許でもとったら?」
「なやむなあ」
「……もうちょっと本気で悩む仕草してよね」
「あすかは? 夏休みの予定は?」
「部活に行くよ」
「…スポーツ新聞部か」
「そ。新入部員がひとり入った。男の子」
「へー」
「加賀くんっていうんだけど、将棋がすごく強いから、将棋欄担当。藤井くんの棋聖戦のときとか、大助かりだった」
「へー」
「なんでそんな興味なさそうなの。少しは興味向けてよ」
「…だってスポーツ新聞部だし」
「どーして関わり合いになりたくなさそうなのかなあ」
「……経緯が」
「たしかに経緯は経緯だけどさぁ。――スポーツ新聞なのに将棋担当の新人とか、意外性があると思うでしょ? 思わないの!?」
「べつにぃ」
「しかも男の子の新人なんだよ!?」
「なぜそこを強調する」
「でも夏休みのいちばんのビッグイベントは作文オリンピックかな~」
「イベントって、応募するだけだろうに」
「でもオリンピックじゃん」
「そうですが…」
「書かないとね。すごい作文を。金メダル取れるようなやつを」
「おまえはいい線行くと思うな~」
「えっ!? ホント、お兄ちゃん」
「なぜ急にときめいてるんだ、妹よ」
「ときめくって――ちょっ、バカッ」
「うろたえるんじゃない」
「わたしときめいてなんかない」
「だって、さっきいきなりキラキラした顔になってるんだもの」
「うるさい、お兄ちゃんにそんな顔するわけない」
「照れんでも」
「――さ~てと、作文のアイディアをわたし練らないと、」
「すぐごまかす~~」
「うるさいっ黙れバカっ」
「まぁおちつけ。くれぐれも無理はすんな」
「……頭ナデナデしないで……落ち着けるわけないじゃん」
× × ×
「作文のアイディア練ってくるんじゃなかったんか?」
「ふんっっ」
「そんな遠くに座らんでもいいだろ。きょうだいだろう?」
「関係ありますかっっ」
「ツンツンしてんな」
「うるさい兄貴はこれでも見とけっ」
「チラシを投げんな……、ほほぉ夏祭りか」
「来月下旬」
「ずいぶん唐突だなぁ」
「いろんな事情があるんでしょ」
「だれの」
「事情というか……都合というか……」
「なんで去年はとくに夏祭り、描写されなかったんだろ」
「ツッコミはそこまでにしときなさい」
「はい」
「あと明日は休載」
「このブログ?」
「そう。管理人さんからの連絡」
「どこから連絡来るのやら」
「つべこべ言わないでそのチラシ100回読み返しなさいよっ」
「そんなに読み返したら頭が夏祭りになっちゃうぜっ」
「どうせお祭り男なんでしょっ!!」
「えぇ……」