期末テストの結果が、あらかた返ってきた。
大きな変化、なし。
ってことは、順調。
のはず。
わたしは自分よりも、むしろ弟の成績のほうが心配なわけだ。
利比古もそろそろ、期末の結果が返ってくる頃合い。
× × ×
「としひこ~~」
「なぁにお姉ちゃん」
「期末テスト、返ってきたでしょう」
「あぁ、まだお姉ちゃんに言ってなかったね」
「返ってきたのね?」
「うん、そうだけど」
「見せなさい」
「そうなると思った」
「素直でいいわねえ利比古は」
「ぼくのほうから見せるべきだったかも」
「真面目で偉いわ」
「――はい、どうぞ」
目を通すわたし。
「英語がよくできてるのは予想通りとして」
「うん」
「他がまあまあなのも、予想通りね」
「…ガッカリしてるの? それは」
「えっ、してないわよ、ガッカリなんて」
利比古は弱ったような声のトーンで、
「……どうしても、お姉ちゃんの優秀さと、比較しちゃうとさ」
「申し訳なく思ってんの?」
口をつぐむ弟。
しょうがないなあ。
しょうがないったらありゃしないんだから…。
「わたしはわたし、利比古は利比古でしょ」
そっと弟の左肩に手を乗せるわたし。
「利比古は利比古なりにがんばってるのが…伝わってきたから」
「ほんと?」
「ほんと」
立ち上がって、くるりと踵(きびす)を返し、
「暑いでしょ。冷たい麦茶、持ってきてあげる」
比べてしまうと――、
つらいよね。
努力することは、忘れないでほしいな……と思いつつ、ダイニングに向かって歩を進めていたら、リビングのテーブルに置かれてあったチラシに目が留まった。
「ハイ麦茶」
「ありがとう」
「利比古は暑さに強いほう?」
「とても強くはないなぁ」
「プールでも行く?」
「お姉ちゃんと!?」
「そのつもりだったんだけど。……あ」
「『あ』ってなんだよ」
「ふふーん♫」
「『ふふーん♫』ってなんだよ…」
利比古は氷が入った麦茶をグイッ、と飲み、
「お姉ちゃん、プールとか行ってる場合なの? この夏」
あー。
そこ、突くかー。
「受験生なんでしょっ?」
「わたしは――ダイジョーブだから、ダイジョーブ博士」
「ダイジョーブ博士ってだれ」
「『パワプロ』って野球ゲームに出てくるの。新作が出たのよ、『パワプロ』」
「…ゲームとか、やってるヒマ、あるのかな」
あちゃー。
「そりゃお姉ちゃんなら勉強の合間にゲームやる余裕くらいあるだろうけど」
あっという間に利比古は麦茶を飲み干し、
「受験生はみんな必死だと思うよ、夏休みは、特に」
責めるような口調で言う。
「塾とか予備校とか行かないの。ほら、夏期講習とか」
「夏期講習か~。アツマくんが行ってたな~、おととし」
「ぼくはお姉ちゃんと話をしてるんだけど」
ううっ。
「そりゃ、お姉ちゃんは夏期講習とかに頼らなくても、自分で勉強なんとかするかもしれないけど」
真剣な表情で、わたしの眼を見るように、
「みんな必死だよ」
わたしは、持ってきた夏祭りのチラシを、あわてて背後に隠している。
「――お姉ちゃん、なに持ってるの?」
気づかれたっ。
「なんかの紙?
もしかしたら、夏期講習の案内とか?
…なんだ、やっぱりやる気だったんだね。
受験のこと、あんまり頭にないんじゃないかとか思ったけど、邪推だったか。
…でもやる気があるんなら、夏期講習の案内だったら、そんな隠したりしないですぐに見せればいいのに――」
「ごめん利比古……そういうのとは関係ないの……」
「え……関係ないって」
「これはね、実は――」
「――まさか、夏祭りのチラシとか」
「どうしてわかるの……」
弟はチラシをひったくって、
「…受験のこと話してたから、見せにくかったんだよね」
「怒ってる…? 利比古」
「ぜんぜん。」
「…ホント??」
「来月の下旬かぁ」
「花火もあるらしいよ。いろんな人誘って行こうよ」
「それ、どんな大所帯になるの……」と呆れ気味に言ったと思ったら、弟は、
「浴衣姿見せたいよね、お姉ちゃん」
「わたしが? だれに??」
「アツマさんに」
「わたしだって……利比古の浴衣姿……見たいし。
それに、わたしの浴衣姿見たって喜ぶかしら? …アツマくん」
「きっと喜ぶよ」
「どーしてわかるのっ」
「お姉ちゃんだもん」
「……?」