ずいぶんと日が高くなり、夕方の6時を過ぎてもまだ明るい。
夏めいてきた。
プールで泳ぐのが気持ちいい気候になってきたじゃないの…とか思いつつ、お邸(やしき)の庭の花壇にホースで水をやっていた。
そしたら、邸の入り口付近に、何やら見知った女のひとの姿が見え隠れする、気がする。
もしかして――、
いや、もしかしなくても。
入り口のところに行って声をかけた。
「藤村さん、こんにちは」
藤村さんに、間違いない。
「あ、い、ちゃ、ん、
みみみ見つかっちゃったかー。
――、
怪しかったよね、わたし、
アポ無しで、お邸まで来ちゃって、キョロキョロして、わたし不審者だ、うん不審者になっちゃったんだわたし、わたし――」
「落ち着いてください藤村さん。とりあえず中に入りましょう」
「入っちゃっていいの」
「だって、用事があって、わざわざここまで来たんでしょう?」
「用事じゃないのっ」
藤村さんはヒステリックな声をあげた。
大丈夫じゃ、なさそうだ。
「助けて……ほしくって、来ちゃったの」
「えっストーカーにでも追われてるとか!?」
「ちがう、ちがう」
「助けてって、いったい」
「わたし戸部と約束してたの。
『絶望的な気分になったら、戸部の邸(いえ)に助けを求めに来ること』って」
そんな約束、してたんだ。
アツマくん、言ってくれてたらよかったのに。
その「約束」のことを知ってたら、もっと受け入れ態勢を整えられたんだけどな。
詰めが甘いんだから。
「でも、絶望的な、っていったい……」
すると、突然藤村さんがさめざめ泣き始めた。
「愛ちゃん」
「はい」
「わたしね」
「はい」
「失恋した」
――あ~。
× × ×
「案の定、か…」
「コラっ、アツマくん、藤村さんにひどいじゃない!」
「おれだって心配してるさ」
「なんか軽薄……」
「心配してなかったら、邸(ウチ)に来るように約束なんかしてねえよ」
たしかにそうだけど。
「だったら、藤村さんにもっと優しくして」
「ん……」
アツマくんは藤村さんに近づいて、
「藤村。なにか、してほしいことはあるか?」
「おフロ。おフロに入らせて」
なに赤面してんの。
「ゆっくり入ってきてください、藤村さん」
「うんわかった、お言葉に甘えて……。」
× × ×
お風呂からあがって、藤村さんの気持ちもなんだか整ってきたような感じがある。
「ウイイレ、?」
「すみません、ゲームわからなくって」
「遊び相手がいてよかったなぁ藤村」
「ひっどーい! アツマくんの言い方!」
「怒らなくてもいいよ、愛ちゃん。
戸部いっつもこんな調子だし。
それに戸部の言うとおり、遊び相手がいてくれるだけでも、今のわたしにはありがたい。
たまにはあんたも役に立ってくれるんだね、戸部のクセに。」
「どうだ愛、おれだって役に立ってるだろ」
「わたしのほうが役に立つもんっ」
「愛ちゃんもツンデレだなぁ」
とほほ、と笑う藤村さん。
いつの間にかやって来ていたあすかちゃんが、
「何年のウイイレにしますか?
藤村さんがしたい年のを持ってきますけど」
「いいの、あすかちゃんをパシリみたいにしちゃっても」
「いいんです」
「いいんですか?」
「いいんで~す!」
この邸(いえ)には、ウイイレもパワプロも全タイトルあることが判明した。
……私設ゲームセンター??
それはそうと。
「藤村さん、ウイイレもいいんですけど。
あとで『女子会』、しませんか」
「――会場は?」
「わたしの部屋で。
あすかちゃんと3人で。
男子禁制で」
アツマくんが、さりげなく席を立った。
「やだなー愛ちゃん。女子会っていうからには、男子禁制に決まってるじゃん」
「思ってること、全部吐いちゃっていいんですよ」
「いいんですか? 愛サマ」
「いいんですよ。
2人とも、受け止められますから」
「そっか……」
『事情が事情だもんね』という顔になる藤村さんであった。
× × ×
そう。
わたしもあすかちゃんも、失恋をすでに経験した同士なのだ。
あすかちゃんは、ハルくんに。
わたしは、流さんに。
「あなたいつ流さんに失恋したの!?」と驚かれているかた。
過去ログを、さぐってみてください。
失恋を経験した女子同士でしか、共有できないものがあるから。
こういうときこそ、女子会だ。