【愛の◯◯】自分の甘さ、ことばの苦さ、そしてことばの……重さ

 

GW2日め。

変な時間に起きてしまった。

こんなに早く起きちゃったのは、きのう、お昼寝しちゃったからだろうか。

あすかちゃんも利比古もアツマくんも、まだ起きていないに違いない。

とくにアツマくんなんか、爆睡してそうな時間帯だ。

 

けれど、わたしは二度寝はしない。

早く起きたのを利用して、GWの宿題を消化したい。

着替えもそこそこに、机に向かった。

 

しかしながら――睡眠時間の短さが影響したのか、宿題がイマイチはかどらない。

頭がなんだかボーッと重い。

でも、二度寝は、だめ。

「そうだ、コーヒー飲もう」

 

× × ×

 

キッチンには先客がいた。

流さんだ。

そういえば、きょうの朝食当番は、流さんだった。

それでキッチンにいたのか。

にしても、朝ごはんの支度をするにも、まだ早いような気がするが。

 

「おはようございます」

「やぁ愛ちゃんおはよう」

「ずいぶん早いお目覚めですね」

「愛ちゃんこそ」

「お互いさまですね」

流さんはアハハと笑い、

「歳をとると、目覚めが早くなるんだ」

「え」

「……いまのは、半分、冗談」

流さんがジョークを言うのは、珍しいと思った。

「コーヒーあるよ」

 

いつもどおり、わたし専用のマグカップで、砂糖もミルクも入れずにコーヒーを飲む。

流さんとふたりでモーニングコーヒー飲むなんて、いつ以来かな。

「さてと、朝食当番はぼくだし、ぼちぼち支度を始めようかな」

「まだいいじゃないですか。早いですよぉ」

「そうかなあ」

「そうですよ」

「愛ちゃんがそう言うなら、間違いないか」

「はい、間違いありません、たぶん」

 

「大学院生にも……宿題って、あるんですか」

「あるよ」

「やっぱり」

マグカップを置き、ぽりぽりと頭をかいた流さん。

「…でも、愛ちゃんがやる宿題のほうが、百万倍大変だと思うよ」

「百万倍は、盛りすぎですよ」

「でも…きみは受験生だし」

わたしも思わずマグカップを置いた。

「文系にもいろいろあるけど――どの学部に進みたいとか、そろそろ決めるころだと思うんだけども」

恐縮そうに流さんは言った。

わたし専用のマグカップには、まだ少しコーヒーが残っている。

「やっぱり――文学部かい?」

まだ少し残っているわたしのコーヒーに視線を落としながら、

「どうでしょうか」

と言ってしまった。

バカっ、

『どうでしょうか』じゃないでしょっ、わたし。

けれども、流さんの視線から逃げるように、

「外から――外から文学を見てみたい気も、するんです。

 法学部だったり、経済学部だったり」

こんなの、方便だ。

煮え切らないことばっか言ってどうするのよ、わたし。

「たしかにねえ。

 だけど、文学部のなかにだって、文学じゃない専攻もあるからね」

冷めたコーヒーを飲み干すわたしに流さんのことばが突き刺さった。

第一志望の学部すら固まっていない。

だから、煮え切らないことばっか言って、有耶無耶(うやむや)にする。

やっぱり自分に甘いんだ、わたし。

ブラックコーヒーの味すら、甘ったるく感じてしまうくらいに。

 

「……流さん、流さんは、」

「?」

バーモントカレーとジャワカレーだったら、どっちが好きですか?」

「?? バーモント」

「わたしは――わたしはジャワカレーがいいです、しかもいちばん辛いジャワカレーが」

「???」

 

顔を洗いに、洗面所に行こうと席を立つ。

なんだかシャワーも浴びたくなってきた。

流さんに申し訳なくて、

わたし自身にもイライラきて――。

 

歩き出そうとするわたしの背中に、流さんがことばを投げかける。

 

「たまには、自分に同情してみるのも、悪くないよ」

 

自分に同情する。

自分自身と折り合うためには、自分に同情するのも、必要だってこと――?

そんなの、一歩も前に進まない気がして、わたしは流さんに納得できない。

でも……。

自己嫌悪。

自己嫌悪が続くと、やがて、負のスパイラルに陥っていく。

それはそれで、悪い方向にしか進まなくて、つまり一歩も前に進まないのと同じで。

だから、自己愛が必要になってくるのであって。

でも、でも、自己愛と自己憐憫は、似て非なるもの。

自己憐憫って、つまりは、自分に同情することだから、

やっぱりわたしはわたしに同情できないし、流さんのことばの意味はやっぱり理解できないけれども、

理解できず、納得できない流さんのことばが――、

 

重い。