中止になった期末テストの代わりとして実力テストが行われ、きょう結果がすべて返ってきた。
さやかとアカちゃんに激励され、わたしは学年1位への復帰を目指して、ここ1ヶ月間がんばって勉強した、つもりだ。
その結果ーー。
「学年3位だったんだって?」
「ひゃああああああっさやか!!! いきなり背後から現実を突きつけないでよ」
「いいじゃん。」
「よくないよ」
構わずさやかは続ける。
「あんた、わたしに勝ったんだよ。
有言実行。
学年4位だったから、わたしは」
「え、え、だいじょうぶなの、さやか、それで。
東大、受けるんでしょ」
「愛~、個人情報保護って年々きびしくなってるって知ってるよね~?
ちょっとばかし声が大きかったかな~~今のは~」
「痛い、痛い、手をつねりながら言わないで。
でもーー、
ごめんなさい。」
「わかればよろしい」
「ごめん、愛ちゃん……」
「アカちゃんだ」
「アカ子、愛になんで謝んの」
「だってわたし、学年2位で、
愛ちゃんに、勝っちゃった……」
「え遠慮しすぎだよ。何かしこまってんのアカ子!?」
「アカちゃん、わたしこそごめんね。
約束、果たせなかった。
1位になるのを目指してたんだし。
有言実行、できなかった」
「そんなことないわ」
「そうだよ。わたしに勝つ、っていう約束は果たしたでしょ?
納得できない?
じゃ、半分だけ借りを作ったってことにしとこ。
残りの半分、無期限で貸すから」
× × ×
今年度の担任はなんと伊吹先生であり、わたしは放課後の文芸部活動に自分の教室から伊吹先生とともに向かうようになった。
きょうの放課後も、部長であるわたしが部活に遅れるのはマズいと思って、「急いでください」と先生の手を引っ張って教室から出ていく羽目になった。
春らしい陽射しの中で、廊下を伊吹先生と並んで歩く。
なぜだか、いつもより先生の化粧の乗りが良いような気がする。
さやかとアカちゃんの優しさには感激したが、それでも結果は結果、「3位」という冷たい現実はまだ少し胸につっかえている。
気を紛らわすようにしてわたしは、
「先生、きょうは鼻歌、歌わないんですね」
と話しかけた。
「へっ? そりゃ~歌わないときだってあるよ」
「でも、しょっちゅうじゃないですか。
チャットモンチーとか、鼻歌で。
きょうは沈黙を保ってるから、珍しいと思って」
「沈黙を保つ、なんて固っ苦しいよぉ」と先生は苦笑いする。
「すみません、野暮な指摘でした」とわたしはお詫びする。
図書館の入り口にさしかかって、
「ーーよかった。」
と、
伊吹先生が、唐突に声を漏らした。
「よかった? なにがですか??」
「だって……、
羽田さん、
あんまり落ち込んでないみたいだから」
当然、担任の伊吹先生は、実力テストの一部始終を把握している。
「ショックは……受けてます。
でも、受け止めないと、これくらい。
わたし、このくらいでへこたれません。
成績が上がったことも、事実ですし」
「きょう、読書会の日だよね。
羽田さん、読書会のホスト、やれる?」
わたしは正直に、
「すみません…半分だけ、松若さんに、代わってもらいたいです…」
「…そう。
少しはーー落ち込んでるのか。」
「はい。
先生が思ってるより、元気ではないです、わたし…」
先生は微笑みながら、
「じゃ、前半は松若さんに代わってもらおう。
あなたの気持ちが落ち着いたなら、後半は任せる。
でも、様子を見ながらだよ?」
「はい……。どうもありがとうございます、先生」
「松若さんにも、ありがとうって言うんだよ」
「はい」
× × ×
松若さんの進行で、読書会は始まった。
わたしは、ただジッと、読書会の議論の流れに集中力を傾けようとしていた。
伊吹先生が、寄り添うようにして、隣の席に座ってくれていた。
× × ×
その夜、
わたしは自分の部屋の枕元で、
少しだけ、泣いた。