好都合にも学生会館が開館してたので、サークル部屋に置きっぱなしにしてあった私物を取りに来た。
児童文学サークル「虹北学園」サークル室
「あったあった。
ーーさてと、さっさと帰りますか」
♫ノックの音♫
(ドッキン)
え……、だれ?
「(ドアに近づいて)どちらさまですか…」
『ルミナ、おれだよ、ギンだよ』
なんだ、おどかさないでよ。
「まったくもう、おどかさないでよ、
(ドアを開ける)」
ギンはたしかにそこにいた。
でも、
でも、
いたのは、ギンひとりじゃなくって、
いちばん会いたくないヤツが、
鳴海が、
ギンの、背後にーー
「な、何しにきたの!?」
「鳴海さんがさ、」
「鳴海はここには入らせないよ」
「(あたしの右肩をぽん、と叩いて)
まあそんなカタいこと言うなよ。
鳴海さんがおまえのサークル部屋をちょっと見学したいんだってさ」
鳴海……。
ギンの背後で、なんだかオドオドしてる。
・考えるあたし
・
・
・
「わかった。
なんか鳴海恐縮してるし、かわいそうだし。
鳴海に5分だけ時間をあげるよ」
× × ×
鳴海「ーーいい雰囲気だね。
絵本もいっぱいあって、楽しそうだ」
あたし「気に入った?
気に入ってもウチのサークルには絶対入らせないけど」
鳴海「ーーわかってるよ」
あたし「あんたどうしたのよ。
冴えないわね。
ちゃんと、食べてる?」
・鳴海、沈黙する
変な気分…。
ギン「ルミナが鳴海さんを心配するなんて珍しいじゃないか」
あたし「だって……」
あたし「鳴海あんた外の空気吸ったほうがいいよ。
あたしまで変な感じになっちゃう。
5分経ったし。
公園でも散歩しよ、散歩散歩」
× × ×
3人で外に出た
@公園
鳴海「まるでオアシスだね」
あたし「都会の?」
鳴海「都会の。
東京は……ときどき、息苦しくなることもある」
あたし「意外と繊細なんだね」
鳴海「季節の変わり目だから…」
あたし「なにそれ」
いつのまにか、
ギンが、
「ついてきていない」ことは、
自然と、わかっていた。
「鳴海。
あんた、言いたいことがあって、
それで様子が変なんでしょ。
それぐらいわかるよ、バカ」
「ルミナちゃんにはかなわないなあ」
「なにがいったい言いたいの?」
「えーっとねえ、
ブログの中の人からの伝言でねえ」
「はあぁ!?」
「『明日と明後日は更新を休みます。最近、休みがちで、申し訳ありません。』」
「……それだけ?」
「もちろん、それだけじゃ……ないよ」
「それなら勇気出して言ってごらんよ。
優柔不断な鳴海も、それはそれで気持ち悪いんだから」
「わかった。
ギンの親友として言う。
ギンを……幸せにしてやってほしい」
「……どういう意味。」
「言葉通りだ。
ギンを幸せにしてやってくれ!
ギンのほうでも、たぶんきみを幸せにしてくれる!!」
「『幸せにする』って……ぜんぜん具体的じゃないじゃん、あたしとギンが『幸せになる』って……あっ」
こんなに、
鳴海が、
あたしとギンの関係を、
関係を関係を気にしてる、
気にしてる、
そう、気にしてること自体が、
つまりは。
「あんた、もしかして、あたしのこと好きなの?」
「…周りに人がいないときでよかった」
「いやあたし、たぶん周りに人がいても、言ったと思うよ」
「月並みなことばだが。
ルミナちゃん、きみはきみ自身の魅力にもっと気づくべきだ」
「それって自意識じゃん」
「そうか…自意識か。
第三者じゃないと気づかないこともあるということかもしれない」
「あたしのどこが好きなの?」
「好きだから、好きなんだ。それこそ、自意識だけど」
「サイコーに答えになってないね」
「ーーあれこれ根拠を並び立てると、もっときみをドン引きさせてしまう、そんなもんだろ?
ぼくはきみを諦めるよ。
きみはギンと関わっているときが、いちばん輝いてるから。
いっそのこと、きみの近くから、いなくなったほうがいい…とも思ったり」
「それで名残惜しさにあたしのサークル部屋に来たわけ?」
「情けないが……」
「ほんっっっと情けないね!!!!!!!」
「鳴海、あたしはあんたがいなくなるのイヤだよ。
『身を引く』からって、なにも消えちゃうことないじゃん!!
あとさ、
これ大事だから、言っておくけどーー、
きょうの鳴海は、ぜんぜんキモくないよ。
見直した。」
「ありがとう。
ぼくはもう、帰るよ」
鳴海が公園から去っていく。
スーッと波が引くように去っていく。
生まれてはじめて男を振った。
振ってしまった反動で、しばらくその場から動けない。
気持ちの整理がつかない。
つくわけない。