きょうもこんにちは。
利比古です。
やむを得ず休校措置、ということで、お姉ちゃんとあすかさんは、平日の昼間もだいたい邸(いえ)にいるわけです。
僕は、来たるべき高校での学業に備えて、自分の部屋で予習をしたりしています。
で、きょうも、自分の部屋で勉強をしていて、疑問点があったのでお姉ちゃんに教えてもらおうと部屋をノックしたら、不在でした。
ということは階下(した)にいるんだな、と思って階段を降りて、お姉ちゃんの行方を探そうと思っていたら……。
・リビング
・キョロキョロと歩き回る僕
(お姉ちゃん、どこにいるんだろう、それにしても広いなあ、お邸)
・歩き回って探した、末にーー
「!!!」
お、
お姉ちゃんと、
あ、
あすかさんが、
ひっついてる。
ひっついて、すやすや眠っている。
「寄り添うようにして…」とは、まさにこういうことかーー?
ど、
どうしよう、
お姉ちゃんを、起こすべきか。
でも、お姉ちゃんを起こそうとしたら、
あ、
あすかさんも起こすことになってしまう。
寄り添ってる、ふたりの身体(からだ)に接近するのを、
羞恥心、
僕の羞恥心が、拒否している…!!
× × ×
『ただいまー』
アツマさんだ。
アツマさんなら、助けてくれる…!
「やーきょうは暑かったけどいい天気だったなあ。
おかげで仕事の調子も抜群だったぜ。
ん~~~?
利比古どうしたんだ? そんなとこで棒立ちになって」
「アツマさん、僕、お姉ちゃんに用があったんですけど……」
・ソファでひっついてる姉&あすかさんのほうに、アツマさんの注意を促す
「(のぞき込んで、)あ~~~~~wwwwなるほどwww
起こしちまえばいいじゃないか、そんなためらわんくとも」
「で、でも、お姉ちゃんに触れると、そ、その、
あ、
あすかさん、
あすかさんにも、さわって、しまう、ことに…」
「ダメだぞ利比古、そんなに優柔不断じゃ!!w
身体、ゆすって起こせばいいんだよ」
「そっそんなことしたら、あすかさんがビックリしてしまいます!!」
「なんで」
「いや……、
ひっついてるので……」
「そっか」
「はい、すみません」
「すみません、は余計だぞw」
「はい」
「そうだな……、
よし、愛とあすかを部屋まで運んで、寝かせておくか!!
ーーなんだ? ギョッとした顔になってるぞ、利比古」
「あああああああの、その、どっちがどっちを」
「ーーまあ、おまえが自分の姉貴を、おれが自分の妹を運ぶってのが、スジってもんだよな。
ただ……(ニヤリ)」
×
×
×
『むくり』
『(寝ぼけて)おね~さ~ん、もうたべられないよお~~』
『あれ?』
「わたし、リビングのソファーで、おねーさんと遊んでたはずなのに」
「ここ、わたしの部屋、
、
、
、
(僕の存在に気付いて)!??!?!?!?!?!」
「どうして…利比古くんが…ベッドの前で正座してるの……」
「あの僕もう出ます(立ち上がろうとする)」
「(グサリと)まって」
「なんにもしてませんから!
アツマさんに『運べ』って言われたから運んだだけで!!
罪滅ぼしに正座してたら、あすかさんが起き上がったので!!!」
「罪滅ぼし~?」
「あすかさんの身体を運んだことの、罪滅ぼしですから!!!」
「(穏やかな口調になって)そうか。
それもそうか、『運べ』って言ったのはお兄ちゃんだもんね。
お兄ちゃんが諸悪の根源だ。
(朗らかに…)あとでヒザの裏、蹴ってやんなくちゃ☆」
「と、とにかくすみませんでした!! もう出ます!!」
「ちょっとまって」
「な、なんですか、そのさびしそうな眼は、」
「高校の勉強の予習してるんでしょ?
わからないところとか、ないかな…」
「それをお姉ちゃんに訊(き)こうと思っていたところなんです」
「……そうだよね……。
ふつう、おねーさんに訊くよね……。
いちおう、わたしも年上なんだけどな……」
「わかりました」
「え」
「気が変わりました」
「え」
「数学の問題なんですけどーー教えてくれますか? あすかさん」
「ちょ、
ちょびーーっとまってね、
いろいろと準備するから、」
「なにを準備するんですか?」
「バカ!! 女の子はいろいろと準備が要(い)るんだから」
・・・・・・気まずい沈黙・・・・・・
あすかさんに「バカ」と言われたのは、
もちろん生まれてはじめてで、
あすかさんは、案外気が強いのかもしれないと、
そのとき、僕ははじめて思ったのです。