ども、はじめまして。
おれ、「タカ」っていいます。
ーー、
ま、「おまえ誰だよ」ってことになるわな。
えーっと、「千葉南(ちば みなみ)」って知らない?
あ、
『フルネームだとかえって分かりづらいけど、もしかして水泳部の『千葉センパイ』のこと?』
って、どこからともなく声が聞こえてきた。
(…下手だねぇ…)
そうだよ、あいつ学校の水泳部では、「千葉センパイ」って、慕われていたらしいな。
もう過去形だけど。
きょうあいつの卒業式なんだよ。
超名門女子校の卒業式でさ。
親戚でもないのに、となりの家に住んでるってだけで、おれの家族はあいつを誇りにしていたんだ。
ま、いわゆる、幼なじみ、ってやつだ、
家がとなり同士で、下の名前が「南」なんて、どっかの国民的漫画みたいだよな。
おれの名前は達也でも和也でもなくて、南には、ずっと「タカ」って呼ばれてきたけど。
そんでもって今は、南が卒業式から帰ってきて、おれんちに上がってきたところだ。
おれは南の1個下で、通ってる高校が、皆様もご存知の通りの不都合により、休校期間に突入してしまってた。
…思ったよりやることがなくて、ウンザリしてたところに、南がドタドタとやってきたのは、日テレのヒ◯ナンデスも終わりに近づいた時刻だった。
「タカも卒業式に来ればよかったのに」というのが、南の第一声だった。
「アホか。家族でもないのに」
「タカが来たら、無理やり家族扱いにしてあげたんだけどな」
「おまえにそんな権限ないだろ」
「(無念そうに)いやー、そこらへんの決まり、意外とゆるいから、ウチの学校。タカも家族にしてもらえたはずなんだけどなーっ」
「超名門女子校がそんなアバウトでいいのかよ」
「アバウトとはまた違うけど、型破りな先輩も後輩も多くて、楽しかったよ、ウチの学校。
…これからは『母校』になるけど」
「そもそも自宅待機って名目なんだこっちは」
「そうだった、そうだった、」
「そうだった、じゃねーよっ」
「昼ごはんは?」
「適当に食べた」
「適当って、どうせカップ麺でしょ」
「そうするしかないじゃんか」
「だめだよーっ、あんたは人一倍栄養に気をつけなきゃいけないんだから」
「(トゲトゲしく)じゃあどうすりゃよかったんだ、しかたねーだろ💢」
「たしかにw
でもねタカ、
わたし、あんたを守ってあげなきゃいけないと思ってるから。
これ、誰とでもなく、自分との約束。」
「ーーなんだよ急に。」
「守ってあげたいから、タカに美味しくて栄養があるもの作ってあげたいかなーー、なんて」
なんだこいつ。
卒業したとたん、「守ってあげたい」を連呼しやがって。
ーー気持ちは、わかるんだよ。
わかるけどよっ。
「わたし……今度葉山センパイや羽田さんに、お料理習いに行こうかな」
「南は壊滅的に料理ができないもんな」
「ひどーいw そんなこと言うなら、あんたも一緒に連れてって習わせるよw」
「ったく……。
葉山センパイが性格難ありだけど天才肌で、
羽田さんはおまえより泳ぐのうまいけど意外と不真面目、
なんだっけ?」
「(^_^;)…ひとの評価は実際に会ってからのほうがいいって、タカ」
「そんなことよりさ」
「まだなんかあんのか?」
「ある。
卒業証書授与式やろうよ、タカ」
何いってんのこいつ。
「それ、卒業式の別名ーー」
「そだよ。でも、もう一回やるの」
× × ×
「はい、その卒業証書持って。
そこに立って、わたしに渡して。
できれば、
『卒業証書授与、千葉南。』
って言ってから渡すのがいいな、って思ったり」
・そう言って恥ずかしがる南
「なにひとりで恥ずかしがってんだ…」
「恥ずかしがってなんかないよ」
・しょうがねえなあ、と南を真向かいに見据えるおれ
「南。
おまえ、
ずっとーー髪短かったけど、
少し伸ばしたらどうだ?
おれとしてはーー、
もうちょい長いほうが、似合うと思うんだが」
・ドギマギして、視線が下向きになる南
「卒業証書、授与! 千葉南!!」
「ちょ、ちょっと唐突だってば!! タカ!!」
「うっせえ、受け取れこのばか!!!!!!
……おめでとう。
よくがんばった。
成績は冴えなかったみたいだが、」
「ちゃんと祝福してっ、ひとこと多いからっもう、」
「でも、よくがんばった。
これからもがんばってほしい。
おれもがんばるから。
これだけが、約束だ。
あらためて、おめでとう」
「ありがとう…………。
でも髪を伸ばすかどうかは、タカの一存じゃ決められないんだからねっ」