【愛の◯◯】日欧母娘喧嘩発生(約1年ぶり)

戸部邸 夕方

 

午後に講義がなかったし、早めに帰宅することができた。

 

入学試験のため、あしたレポートを提出しに行けば、長期休暇のはじまりはじまり。

 

 

ーー大学生の、特権だなw 

 

・愛も学校から帰ってきた

 

「ただいまーっ」

「おかえりーっ」

 

「…くつろいでるわね。

 いつも以上に……」

「だって(大学の)後期ももう終わったようなもんだし」

「休み長いのよね。またあのカフェでバイトしないの?

 したほうがいいよ」

「するべき?」

「するべき。」

「なぜに」

「2か月も休みがあったら、なまけちゃうでしょう」

「適度にだらけることも必要だと思うけどな」

「だとしても…」

「また『リュクサンブール』で働かせてもらうかどうかは別として、心の余裕をもたせないと、生き急いでるみたいになっちゃうぞ」

 

スマホのバイブ音

 

「おれのじゃないな」

「わたしに着信…だれから。

 

(画面で確認して)

 

 お母さん!?

 

「おいそんな素っ頓狂な声出さなくても」

「なんでよお母さん。

 大事な話してるときだったのに」

「や、バイト云々についてはあとからでもいいだろ」

「とにかくーー部屋で話してくる」

 

・自分の部屋に急行しようとする愛

 

「お~い」

「なによ!? 急に呼び止められたらコケちゃうじゃない」

「生き急いでるな……おまえ」

「ど、どうしてよ」

「カバンちゃんを置き去りにする気か?w」

 

「ふ、ふんっ、

(乱暴に自分のカバンをつかんで、音を立てて歩み去る)」

 

 

 

 

× × ×

 

~25分後~

 

おふくろさんと話し終えたのか、愛が階下(した)に降りてきた。

 

だが………

 

「おまえなんでそんなイラツイてんだ。

 

 まさか……」

 

「……、

 

 ……、

 

 

 

 

 

 ……、その、まさかよ」

 

 

 

グランドピアノの前にどーん、と腰掛け、

ムチャクチャな速さで曲を弾きまくる愛。 

 

 

 

・演奏を突如として停(と)め、鍵盤に突っ伏する愛

 

「(-_-;)」

 

 

おふくろさんと電話でケンカしたんだな

 

「(-_-;)さすがにわかるのね……」

 

 

「前にもあったよな? こんなこと。

 ちょうど去年の今ごろだった気がするぞ。

 

 春の超大型連休に会ったときは、わりとうまくいってたよな? おまえとおまえの母さん。

 

 またおんなじことの繰り返しか?

 よくないなあ」

だって!!

 

びくっ。

 

 

お母さん、わたしがまだなにか伝えようとしてるのに、一方的に電話ブチッと切っちゃうんだもん。

 

 そのくせ、あっちは長々としゃべり続けるし、お説教みたいにーー。

 

 ほんと一方的!!

 

 

「……

 

 それは、ほんとうに、一方的なのか?

 

「なにがわかるの? アツマくんに」

 

「わかってないのはおまえのほうだ」

 

「どうしてよ……」

 

「まず、『時差』ってもんがあるだろ、『時差』ってもんが。

 

 あっちは今、何時だと思ってるんだ?」

 

「あっ」

 

「(やれやれ、と両手を広げて)『あっ』じゃねーよ。

 あっちは、朝。通勤間際の時間帯だ。

 忙しいんだよ。

 もしかしたら、おまえの言い分(ぶん)も、もうちょっと聴いてやりたかったかもしれない。

 

 でもおふくろさんも忙しいんだよっ。

 やむなく電話を切るしかなかった、そういう状況も考えてみないと。

 おふくろさんの立場になれよ。

 余裕がなかったんだよ」

 

『余裕がないのはよくないなあ』って言ったのはどこのだれ?

 

やべっ。

 

自己矛盾。

 

さっき言ったことと、正反対のこと言っちまったのか。

 

でもーー 

 

「…それとこれとは別の話だよな?」

 

「なにそれ。

 

 …自家撞着(じかどうちゃく)ってことばわかる? アツマくん」

 

「中坊じゃねーんだぞ……わかるに決まってんだろ。

 

 でもそれとこれとは別の話なんだ」

 

 

やべぇ。

 

落ち着け、おれ。 

 

 

「離れて暮らしてるから、なかなか顔も合わせられない。

 だから、せめて電話であっても、娘に伝えておくべきことは伝えておきたい。

 

 ーー長話になっても、無理もないって。

 

 それぐらいわかってやれよ、娘だろーがっ。

 な?」

 

 

・うなだれる愛

 

 

すんでのところで『バカヤロッ』と言うのを押しとどめられた。

 

ただーー言い過ぎたか。

 

おれのお説教のほうが、愛の母さんよりも『一方的』だったかもしれない。

 

いや多分そうだ。

 

だからいまーーうなだれてる愛は、からだにちからが入らない。

 

立ち上がるのも難しいんだろう。

 

 

 

傷つけちまった。

 

なら、

 

その傷の、手当てをするのはーー 

 

 

 

ーー悪かったよ

 

 

・ピクンと反応する愛

 

 

「一緒に考えようや。

 おふくろさんと仲直りする方法」

 

 

・うんともすんとも言わない愛

 

 

「立てないんだな」

 

・こくん、とうなずく愛

 

「じゃ、立てるようになるまで、ずーっと待ってやる」

 

「(少し顔を上げて)あるよ…立つぐらいの、元気は」

 

「どうかな」

 

・また無言になる愛

 

「ほらw」

 

・スカートの裾をぎゅっ、と握る愛

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

「あれー? きょうの夕食当番、おねーさんじゃなかった?

 なんでお兄ちゃんが作ってんの」

「不満か? 妹よ」

「不満じゃないけど…あやしい」

「代わってやったんだよ。」

「どして?」

「いまのあいつじゃーー料理は作れないよ。

 フライパンを焦がしちまう」

「そんなことまでどうしてわかるの!? お兄ちゃん」

「ほかのことで精一杯なんだ、いまのあいつは」

「ほかのこと??」

「ーー、

 

 そっとしておけって。」