ぼく、瀬戸宏(せと こう)。
スポーツ新聞部の2年生。
水泳に代表される「水(みず)」の競技担当。
今日から新学期!
だが、始業式で、学校は午前中で終わり。
部室となっている教室に行くと、
同級生の女子・一宮桜子(いちみや さくらこ)が先に来ていた。
「こんにちは瀬戸くん」
「やぁ、桜子。
中村部長は?」
「さあねえ」
「さあねえ、ってw」
「だって部長は神出鬼没タイプじゃないの」
「わりと、ねw」
「ところで部長って、3年の2学期だけど、引退する気配ないよね」
「あたりまえでしょう。『スポーツ新聞部』なのよ、ここ…」
「沼だな」
「沼ね。自分から進んで沼にはまり込んでいってる。そして部長はそれを楽しみまくってるの」
「ところで部長は進路どうするんだろ」
「さぁ……進学だとは思うけど」
× × ×
「はい、世界柔道のまとめ」
「うわあ特別紙面だあ。これ、全部桜子が?」
「格闘技担当はわたしなのよ」
「ずーっと観てたの? テレビで」
「観てた。」
「たいへんだあ」
「たいへんだよ。手書きの原稿じゃなくてPC入力だから、かえって、肩がガチガチにこっちゃって」
「でもさ、」
「?(きょとん)」
「原稿作るの速いよな、桜子は」
「あ、あすかさんほどじゃないわ」
「なんでキョドってんの?」
「瀬戸くん……」
「うん」
「あすかさんのこと、少しそっとしといたげて」
「!??!?!
急になんなんだよ。
あすかさんになにがあったんだよ」
「それは知らなくてもいいから」
「うーん…ちょいめんどくさいことみたいな気がするけど」
「とくにサッカー部とサッカーの話題は慎重にね」
「あ……なんか、把握した」
× × ×
「じゃあおれはプールに行ってくるから」
・学校のプール
女子が、ひとりだけ、
プールサイドで準備運動をしている。
同級生ーー2年の、水泳部。
神岡恵那(かみおか えな)だ。
「やぁ恵那!」
「(鬱陶しそうに)マスゴミが来た…」
「ひどいなあ。新聞部をマスゴミ呼ばわりかよ」
「学校っていう世界の中で、新聞部のほかになにがマスゴミだっていうの」
「放送部は?」
「知ってるでしょ、放送部が開店休業状態だっていうこと」
「知ってたw」
「恵那ってさあ」
「はい。」
「おれに対してはいっつも口が悪いけど、」
「けど、なに。」
「ヘンなはなしだけどさぁ」
「なに?💢」
「おれに水着を見られるのは、別になんとも思わないんだな」
「ーー恵那?
おい恵那ってば」
「(キョトーン)」
「えーなっ。
準備運動は、中途半端にやらないほうがいいぞ」
「マスゴミっ」
恵那。
来年のインターハイ、出たいんだよな?
高校最後の。
だから、
ほかの部員よりも、少しでも多く、練習するようにしてるんだろ?
今日みたいな始業式の日でも、午前で学校終わったら、すぐプールに向かって。
ほかに誰も来てないのに、ひとりで準備運動して、ひとりで黙々と泳ぎ続ける。
水泳部で、恵那がいちばんやる気があるよ。
がんばれよ、恵那。
陰ながら(?)応援してるぞ。
ーーケガで、高校の大会のスタート台に立てなくなった、
元・選手の、
おれの分もな…。